さまざまな人気アニメの声優に加え、歌手としても活躍する竹達彩奈が、2023年12月に公開されたディズニー創立100周年記念のアニメーション映画「ウィッシュ」に出演している。声優・歌手としてのキャリアは申し分ない彼女も、ミュージカル楽曲には今作が初挑戦となった。そんな竹達の魅力について、音楽をはじめ幅広いエンタメに精通するジャーナリスト・原田和典氏が主観を交えて紹介する。
竹達の声、音楽の魅力
今の自分にとって声優という存在やその音楽は必要不可欠なもので、どれほどの頻度でパサパサに乾いた心を潤してもらってきたか、考えただけでも感謝の気持ちがふつふつと湧き上がる。思えば彼女を意識したのは、2013年、発売されたばかりのアルバム『apple symphony』を批評する仕事がきっかけだった。「へえー、こういう世界があるのか」と思いながら聴いていくうちに、「これ、すごくいいんじゃないか」「間違いなくすごくいい」「なんだか高まってきたぞ」と、気持ちのグラデーションが濃くなっていくのが分かった。
歌もサウンドも輝くような夢を持っていて、作者クレジットを見たら沖井礼二や吉田哲人の名前もある。グレードが高いのも納得だ。もちろんライブにも行った。「声優の歌声をリアルに聴けるのは耳の幸せだな」とすっかりいい気分になって、その後も、ゆいかおり、内田真礼、鈴木みのり、上坂すみれ、伊藤美来、和氣あず未、TrySail(麻倉もも・雨宮天・夏川椎菜)などのライブを体験して現在に至っている。竹達の作品と実演から受けた感激のもとに、ここ10年ほどの自分は存在しているといっても過言ではない。
12月15日に公開されたアニメーション映画「ウィッシュ」での竹達も実に良かった。主人公アーシャ役の生田絵梨花、ヴィラン役の福山雅治など芸能界を代表するスターが起用されていること、日本のMr.ディズニーこと山寺宏一が今回も光っていることなど、話題満載の作品ではあるが、竹達が演じるバジーマも個人的には強く推したい。
バジーマは、アーシャの7人の友達“ティーンズ”(『白雪姫』に登場する“七人のこびと”からインスピレーションを受けたという)の一人。シャイなキャラクターで、一人でふとどこかに消えたりすることもあるが、基本的には“いつもみんなを陰ながら見守っている優しい女の子”という設定である。陰から見守るというと、昭和世代の私などはすぐに日本の人気漫画「巨人の星」の明子姉ちゃんを思い出してしまう。あの、木陰や柱の横っちょから、野球にとりつかれた父と弟を見る、うるんだ瞳だ。だが、当然「ウィッシュ」には四畳半とかちゃぶ台という概念はないし、「見守る」行為が持つ温度も湿度も異なるだろう。
また、竹達にとって「ウィッシュ」は、もう一つのチャレンジの場でもあった。これまでさまざまな楽曲を歌いこなしてきた彼女が、ついに「ミュージカル楽曲の歌唱」に取り組んだのだ。「私はいつもキャラクターソングだったり、自分名義で曲を歌ったりしているんですけど、ミュージカル楽曲は歌ったことがなくて、今回が初挑戦でした。すごく難しくて『う〜ん』という感じで挑ませていただきました」と語っているが、アーシャとティーンズで歌う劇中歌「真実を掲げ」の仕上がりは、実に自然で、なめらかに新境地を開拓しており、「さすが」の一言に尽きる。
中学生のころから声の仕事に携わり、「けいおん!」の“あずにゃん”こと中野梓役で注目度を急上昇させて以降、「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」の高坂桐乃役、「ソードアート・オンライン」(ディズニープラスで配信中)のリーファ(桐ヶ谷直葉)役、「だがしかし」の枝垂ほたる役、「たまゆら」の沢渡楓役、「五等分の花嫁」をはじめとする“五等分シリーズ”の中野二乃役など、文字通りシーンを駆け抜けてきた竹達。
声を当てているのを聴いても歌を聴いていても思うのは、「キャラクターを表現することに、とんでもなく長けている」という点。竹達の名義で発表されているオリジナルソングたちも、1曲1曲、すっかり歌詞の主人公になりきって歌っているようにしか感じられない。あの柔らかな笑顔の奥には、憑依型の熱いスピリットが秘められているのかもしれない。
◆文=原田和典
https://www.disneyplus.com/ja-jp/movies/frozen
▼ディズニープラス特集ページはこちら
Walt Disney Records
発売日: 2023/12/15
ポニーキャニオン
ポニーキャニオン
発売日: 2022/09/21