コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回紹介するのは、高村秀路さんの漫画「うらうらひかる 津々に満つ」だ。
作者である高村さんの編集担当だった、きくちさんが12月5日にX(旧Twitter)に「最愛の人が遺したのは、臓器と自分の子どもでした。」のコメントと共に本作を投稿したところ、7.6万件を超える「いいね」が寄せられ、Twitter上では「すごく感動した」「続きが気になって眠れない」「即本屋に買いに行った」「鬼ほど引き込まれる」「満足度が高すぎる」などの反響の声が多数寄せられている。この記事では高村さんにインタビューを行い、創作の背景やこだわりについてを語ってもらった。
【漫画】「うらうらひかる 津々に満つ」あらすじ
主人公・圭祐は彼女の千津子にプロポーズをし、結婚するはずだった…。しかし、千津子は姿を消してしまう。
千津子が姿を消して丸12年が経とうとしていたある日、圭祐の元に「上崎航士」と名乗る1人の男の子が現れ、千津子の息子だと言い張る。さらに、いきなり圭祐のことを「お父さん」と呼び始めた航士に千津子が1年前に亡くなっていることを告げられる。
絶望に言葉を失った圭祐だったが、航士は「本題に入っていいですか」と圭祐を訪ねてきた目的を話し始め、千津子が臓器提供の意思表示をしていたこと、事故後に脳死判定がなされてすぐ、肺・角膜・肝臓・腎臓・心臓が移植されていったと語る。そして、航士は圭祐が千津子との結婚のために貯めた資金を使ってレシピエントを訪ねたい旨を伝えた。
最初は乗り気ではなかった圭祐だが、航士の「母がまだどこかにいることを確かめたい」という言葉に心を動かされ、2人はレシピエントを訪ねる旅を始める。
高村秀路さんインタビュー
――「うらうらひかる 津々に満つ」を描こうと思ったきっかけや理由があればお聞かせください。
その頃私は連載のネームで迷走を続けており、3年間何も成果物がない状態でした。没ネームのファイルだけが何十もPC画面に増え続けていました。ストレスで夜中に1人で机をぶん殴って流血したこともありました。ジョギングしながら号泣したことは数知れません。それでも没ネームは容赦なく増えていきました。地獄でした。本当に本当に疲れていました。
漫画なんか無理に仕事にしなくても、今日び発表の場はいくらでもあるしもういいかな…と思っていたときに、担当さんから5話くらいの短期で何かやってみませんかと言われました。「臓器移植」「親子」というキーワードもそのときに担当さんからいただきました。
どうせこれもだめになるんでしょ…はいはい…まぁこれで最後にしよう…と思いながら作ったのが『うらうらひかる 津々に満つ』です。1話の一番最初のネームは「無」の気持ちで描いていました。
――「すごく感動した」「続きが気になって眠れない」と話題の本作ですが、こだわった点などがあればお聞かせください。
ネームが通ったとお知らせいただいたときも「無」でした。喜ぶ元気がありませんでした。ただ、担当さんの上司の方だと思うのですが「ドナーとレシピエントの、どちらかが一方的に悪者になるような形にはしないように」と言われ、それが「無」の中での初めての「形を持った何か」になりました。それが「こだわり」と言っていいものだったかもしれません。
――本作の中で、特に思い入れのあるシーンやセリフがあればお聞かせください。
「形を持った何か」の2つ目が4~5話で描いた「肺」のレシピエントの佐川くんでした。この人に言ってほしいことがある、と初めて思いました。「正しかったりしっかりしたりって難しい」というセリフです。
物心ついたときから事あるごとに、人生って難しいなぁと思っていました。物心ついてから随分たちますが、ここにきて佐川くんに言ってもらえてよかったです。この辺りから、少しずつ漫画を描くのを楽しいと思う元気が出てきました。
――普段作品のネタ(ストーリー)はどのようなところから着想を得ているのでしょうか?
元気なときはよく寝てよく食べ、ジョギングか散歩に行けば何かは出てきます。最終話までずっと、楽しく元気に走ったり歩いたりしながら考えました。「形を持った何か」も走ったり歩いたりしているうちに増えてきました。
――高村さんの今後の展望や目標をお聞かせください。
「無」から始めて、描いているうちに「形を持った何か」が増えてきたという経験は覚えておきたいです。それで、これからまた「無」がきたときに思い出したいです。漫画を描くのは地獄ですが、楽しい地獄です。これからも、私の地獄を走ったり歩いたり、没ネームを増やしたりしながら、楽しくずぶずぶ沈んでいきたいです。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。
漫画を仕事にし続けられるかはわかりません。でも漫画を描くことはやめないと思います。地獄の底への道の途中から手を振りますので、お見掛けの際には手を振り返していただけると嬉しいです。