撮影現場に常に流れる「清廉な空気」
――撮影を重ね、俊平という役の捉え方に変化はありましたか?
今回の現場はものすごく浄化されている場というか、スタッフも気持ちのいい方たちが多くて、ロケに行くと、本当にすてきな風景の中でみんなが練習しているんですよね。よく知っている曲も改めて向き合うと本当に美しい曲で、キャストも真っすぐで純粋な方たちが集まっているので、清廉な空気が常に流れています。
それが俊平という役を作る上でも大きく作用していて、音楽に対しての愛情と喜びを感じる人たちと共鳴することで、俊平自身も喜んだり傷を癒されたりするということが、とても当たり前のように感じられるんです。なので、撮影に入る前に考えていた役とは全く違う、すごく無垢な役になっているのではないかなと思います。
――オーストリア・ウィーンでの撮影もありましたが、いかがでしたか?
ウィーンに実際に行けたのは非常にうれしかったです。そのシーズンは天気が悪いと言われていたのが、たまたまその数日間だけものすごい快晴だったんですよ。本当に気持ちのいい日が続いて、美しい風景がたくさん撮れて。日本でも富士山が見える場所によくロケに行くのですが、ここでも富士山がよく撮れていて、ウィーンの風景と空気感みたいなものが日本にもつながっている感覚があります。
芦田愛菜は「強いからこそ、真っすぐで温かく、柔らかい」
――娘・響役の芦田愛菜さんの印象をお聞かせください。
強い人です。強いからこそ、本当に真っすぐで温かく、柔らかくいられるんだなということを改めて感じています。それはドラマだけじゃなくて、バラエティーでご一緒したときにもそうだし、待ち時間にも感じています。
僕なんかすぐに「寒い寒い」と言って、“寒がりマエストロ”とあだ名をつけられているのですが(笑)、芦田さんは撮影中もつらそうな様子を1ミリも見せないので、本当にすごいなと思いながら見ています。女優としてももちろん素晴らしいですし、人間としても素晴らしい方だなと思っています。
響という役は俊平の前では基本的に怒っているので、本番中は怒っているところしか見れていないのですが、この間すごく楽しそうにしているシーンを見かけて複雑な思いを抱きました(笑)。本当の響は、僕の目の前ではないところでたくさん現れていると思うので、その姿をすごく楽しみにしています。
――俊平と響の親子関係についてはどう思われますか?
不思議なものですよね、親子というのは。誰もが一言では言えない複雑な関係や感情を持っていると思います。なので、例えうまくコミュニケーションが取れないことが続いても、その中でも微妙に関係が変化していって、「通じ合った」「また駄目になった」というその揺らぎを、丁寧に演じていきたいと思います。
――最後に、視聴者へのメッセージをお願いします。
震災やコロナなどの困難なことからどうやって立ち直っていくかというとき、娯楽や音楽、物語といったものが大きな力を与えてくれるということをとても実感しています。そんなに大層なことではないかもしれませんが、このドラマに出てくるそれぞれのキャラクターが、みんな魅力的で個性的で、僕たちと同じように何かを抱えていて、それを音楽を通して乗り越えていく姿を、皆さんと共感し合いながら一緒に見ていきたいと思っています。