考え方が違う記者と警部補…相反する2人がタッグを組んで捜査を進めていく
本作の主人公であるカサソラは生粋の記者で、一度はタブロイド紙に異動になったものの、事件の取材の実績が認められ大手新聞紙に戻るよう打診される。しかし“自分が追い求めたいこと”を重視するカサソラは誘いを断るのだった。あまり現実的ではない“儀式殺人”というエリサからの仮説も柔軟に受け入れ、ひたすら捜査を重ね続けるカサソラ。地位よりもジャーナリスト魂を燃やす姿には心を打たれる。
一方のモンドラゴン警部補を始めとするメキシコ警察は、物語の終盤まで“儀式殺人”を受け入れることはなく、犯人逮捕に苦戦を強いられる。そして警察の上層部から圧力をかけられた結果、なんとカサソラを誤認逮捕してしまうのだ。
それでもめげないカサソラの姿には脱帽だが、警察の“儀式殺人”への理解のなさが事件解決の大幅なタイムロスにつながり、さらに多くの被害者を生んでしまう姿は非常にもどかしいものだった。ネット上でも、「あんなに事件に真っすぐなカサソラを逮捕するなんて」「警察は誰でも逮捕しちゃうの?」といった意見が多く見られた。
そんなモンドラゴン警部補も、最終的にはカサソラとタッグを組み事件を捜査するようになる。相反する2人の間にいつしか友情なようなものが芽生え、互いに協力し合っていく様子は、本作の見どころの一つと言えるだろう。
ダークな連続殺人事件の中に描かれる“リアルな人間ドラマ”
物語はこの不可解な連続殺人事件を主軸に進められるのだが、中には様々な人間ドラマも描かれている。
例えば、昇進の話が来ていたモンドラゴン警部補に妊娠が発覚し、ハードな警部補の仕事をさせたくない夫が幾度となく休暇を促すようになる。それでも犯人を突き止めようと奔走するモンドラゴン警部補。終いには夫が職場までやって来たことで、一度夫婦は仲違いしてしまう。仕事と家庭の両立に悩むモンドラゴン警部補の姿は、事件を捜査する姿とはまた違った一面を見せ、アナ・ブレンダ・コントレラスも見事に演じ分けていた。
また、カサソラもエリサと出会い惹かれ合ったことで、2人は恋仲になる。そして恋人として過ごす多幸感あふれるシーンなど、本作では登場人物たちのプライベートな描写も丁寧に映し出される。
突然起こる猟奇的な殺人事件と、怪しい霊媒師の存在…。“クライムサスペンス”というだけあって、全編を通して不穏な音楽や空気感が流れ、緊迫感あふれるシーンも満載となっている。
Almadía Ediciones
発売日: 2020/01/13