福山雅治をトップランナーたらしめているエネルギーの源泉
ダブルアンコールでは、1940年製の“Martin D-45”を爪弾き、「虹」を弾き語りで披露。NHKの特別番組「NHK MUSIC SPECIAL 福山雅治~時を超えるギター~」のロケで福山自ら渡米し、マーティン社にフルリペアを熱望。
幾多の職人たちの手によって修復され更にパワーアップして戻ってきた愛器、“84歳”のヴィンテージギターである。ファンの手拍子とコーラスに耳を澄まし、リズム感を褒めたり、茶目っ気たっぷりにテンポを修正したり…福山は、2万人を相手にまるで一対一の対話をするかのような親密さでコミュニケーションを積み重ね、大合唱へと導いていった。
“Martin D-45”を愛蔵品としただあがめるのではなく、コレクションとして誇示するでももちろんなく、最新の音色を瑞々しく奏で、より多くの人々と分かち合うことで、その輝きを更なる未来へと届けていく。奏者である福山自身も、ギターも、最新こそが最良。“最良の今”を絶え間なく更新し続けていく…と表現すれば美しいが、実はそれは最も難しいことでもある。
番組中、既に充分に良い音が鳴っていた幻の名器のポテンシャルを信じ、困惑顔の周囲を説得してより良い音を求め、修復を諦めない福山の姿が脳裏に焼き付いている。その飽くなき探究心こそが、福山をトップランナーたらしめているエネルギーの源泉なのかもしれない。
日々をきちんとやっていくことが、平和へとつながるのではないか
6公演を完遂し、「やり切りました。ありがとうございました」とあいさつした福山。「はじめはどうなることかと思いましたが…でも、決して“何事もなく”という状況ではございません」と沈痛な面持ちで、地震によって大変な状況に置かれている方々へ想いを寄せた。
また、「音楽はいろんな感情を受け容れてくれる場所なんだな、と思いました」とも語っていたのが印象深い。「昨今の不穏な世界情勢の中で、“何ができるのかな?”と考えますよね。個人にできることは少しかもしれないけど、平和維持、日々をきちんとやっていくこと。社会を構成する一員として、その連鎖が平和につながっていくのではないか」とも述べた。
「またライブで逢いましょう。あなたの街へ逢いに行きます」と再会を約束し、福山はステージを去っていった。4月からは全国ツアー「WE’RE BROS. TOUR 2024」を開催することが既に発表されており、17か所35公演、30万人規模を動員する。
取材・文=大前多恵