名優ロバート・デ・ニーロとルイス・ブランドーニが共演するラテンアメリカ・オリジナル・シリーズ「NOTHING/ナッシング」(全5話)が、2月14日に一挙配信された。同作は、毒舌で有名なアルゼンチン・ブエノスアイレスの美食評論家であるマヌエルが、家の掃除からプライベートな用事まで家政婦にすべてを任せきりで何十年も生きてきたが、予期せぬ出来事で一人きりになり、自分が助けなしでは何もできないことを思い知る…という物語。今回、幅広いエンタメに精通するフリージャーナリスト・原田和典氏が本作を視聴し、独自の視点で見どころを紹介する。(以下、ネタバレを含みます)
デ・ニーロ&ブランドーニの共演にワクワク
相変わらず渋く、ダンディーで、単語が聞き取りやすいデ・ニーロが画面上で映えているうれしさはもちろんあるし、アルゼンチン出身の実力派ベテラン俳優・ブランドーニとの共演は何だか目新しくてワクワクさせられた。少なくとも50本以上の映画に出演歴があり、過去の出演作では「4×4 殺人四駆」や「明日に向かって笑え!」といった映画が日本公開されたブランドーニだが、この「NOTHING/ナッシング」によってさらに日本でもなじみ深い存在となりそうだ。
そんなブランドーニが扮(ふん)するのは、ブエノスアイレスに住むベテラン作家・マヌエル。作家とはいっても最近は「書く書く詐欺」で、出版社から前金をもらっている(うらやましい)、にもかかわらず作業は進んでいない。一方、それなりに動いているのが「グルメ評論家」としての仕事。毒舌、辛らつ、酷評でいくほうが目に留まる機会が増えるとばかりに、めったやたらに斬りまくる。批評というより悪口だ。どこの国でも称賛より批判のほうが注目されるのは同じなのかも。
食材、料理人、料理があってこそようやく批評が生まれようというのに、自分が創造主あるいは全能の存在にでもなったような振る舞いに見えるからタチが悪い。「意地の悪い男だな」というのが私の第一印象だが、逆に言えばそのくらい、ブランドーニの演技が日本で生まれ暮らす私にも真に迫っているということだ。
マヌエルには数十年、一緒に暮らしてきた家政婦がいた。彼のわがままをけなげに聞き、料理をし、こまごまと身の回りの世話をしてきた。だが、我慢に我慢を重ねてストレスも疲労もたまっていたのだろう、その家政婦がある日急逝してしまう。
家政婦の死後、環境が大きく変化
途端にどう暮らしていいのか分からなくなるマヌエル。スーパーマーケットでの買い物すらうまくいかない。店員、客、警備員に当たり散らし、いわゆる“老害”の真骨頂を発揮するが、やがて彼の前にパラグアイから若い女性・アントニアが仕事を求めて現れる。マヌエルは何度も断ったものの、やがて正式に採用。彼女も逆にマヌエルにパラグアイの料理を教えたりもした。
だが、どのくらいマヌエルが「家を清掃し、料理を作るファクター」としてではなく「人間として」アントニアを尊重していたかは分からない。彼女と一緒にそれなりに高級なレストランを訪れたところ、そこの店主が、かつてマヌエルの書いた酷評を音読しはじめた。マヌエルはブチ切れて、店主と口論の末、自分がパラグアイ人女性と一緒に食べに来ていた事実を利用して、話を急きょでっちあげ、大声で店主を「人種差別主義者」呼ばわりする。
驚いたのは店主のほうで、突然の言いがかりに目を丸くしてオタオタするばかりなのだが、この場面、マヌエルの心に潜む差別のマインドと、「俺様のような評論家が大声を出せば、それが濡れ衣であろうとテメエの店なんてイチコロだぜ」的な驕り高ぶりが煮詰められていたように感じた。まったく、1秒も同じ時間を共にしたくない男だ。イチ視聴者として見ているだけでイライラするし、もはや一周回ってブラボーと言いたい。
そんな彼にもしっかり長年の親友がいて、それがデ・ニーロ演じる作家のヴィンセントである。ヴィンセントはアメリカを拠点に世界を飛び回っていて、それほど頻繁に会っているわけではないものの、会えばお互いスペイン語と英語で会話のやりとりをしながら楽しい時間を過ごしている。
この再会から物語にはさらなるコクが加わるのだが、基本的にスペイン語のドラマなので、概略を英語で説明するという役割も任されているのだろう。デ・ニーロは他に、ストーリーテラーのような感じで各話の随所に登場しているので、そちらにも注目してもらいたい。
また、鮮明に捉えられた料理の数々は見るだけでよだれが出てきそうなくらいおいしそう。スプーンを押し当てただけでスッと切れる柔らかな牛肉などたまらんし、眠らない街・ブエノスアイレスの光景も大きな魅力だといえよう。
「NOTHING/ナッシング」は、ディズニープラスのスターで配信中。
◆文=原田和典
https://www.disneyplus.com/ja-jp/series/nothing/
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発売日: 2023/02/08