役作りは歩き方から
──そこから俳優としての人生が始まったわけですが、現在、お芝居や俳優というお仕事の面白さみたいなところを、どのように感じていますか?
作品が変わるたびに出会う人が変わる点です。あとは何よりも、作品によって大小はあれど、プレッシャーがかかることによって刺激を受けられることです。今はこの生活に慣れてしまったので、逆に毎日同じ生活みたいなものはもう無理かもしれない…。ちょっとヒリっとする環境が良いんですよね。「下手な芝居したらもう次は呼ばれないかもしれない」みたいな。
──その怖さやプレッシャーも楽しんでいると。
そうですね。そっちのほうが面白いなと思って。
──演じるということについての面白さはどのように感じていますか?
面白さはありますね。楽しいとは思わないんですけど。
──楽しいとは思わない?
はい。よく「演じるのが楽しい」と言っている方がいるじゃないですか。その気持ちは共感できないんです。でも面白さはあります。中途半端な役作りだと、僕は映像に出ちゃうんです。いくら周りがいいって言っても、俺からしたらめちゃくちゃ下手だっていうことがすごくよくあって。
だから手を抜けないんです。手を抜こうと思ったことはないですけど、真剣に役作りをする。その過程が面白いですね。現場に行って、相手と会ってみたらまた想像していたものと変わってくるので、最近はそもそもイメージしていかないようにしています。
──役作りの工程が面白いということですが、どういう工程を踏んでいるのでしょうか?
まずは歩き方です。セリフを覚えるときに散歩しながら覚えるんですけど、そのときに歩き方から考えます。「こういう感じの歩き方をする人かな」と考えて、セリフを覚えて。そのあとは、その役の人生を1から想像します。そこに自分の子どもの頃の姿を当てはめて「俺だったらどうするかな」と考えて、「こういう反応をしたらどういうふうに人生が動いていくかな」とイメージしていく。
そうすると、芝居しているときに昔のことを思い出すんです。実際の自分は体験していないはずなんですけど、「あのときはああだった」って思ったり、想像の中の両親の顔が思い浮かんだり。それを感じながら芝居をしていると、役を生きている感覚が生まれて、「あ、僕はこういうことをしたかったんだ」と思うんです。大変な作業ではありますけど、毎回その感覚になれることを目指してやっています。
想像よりも上のことをやれる俳優でありたい
──いろいろな出会いがあることも面白さとして挙げていましたが、これまでの俳優人生の中で、特に大きな出会いだったなと思うものは何でしょう?
やっぱり「下剋上球児」のプロデューサー・新井さんと、監督の塚原(あゆ子)さんです。撮影の序盤、僕は他のキャストとは別で、1人での撮影が多かったので早めに現場に行って、ずっと監督とプロデューサーの横で話を聞きながら過ごしていたんです。そのときに、いろいろなお話も聞かせてもらったし、距離も近くなって。
あの作品があったからこそ、今僕はここに呼ばれているわけですし、やっぱりあのおふたりとの出会いは僕の大きなターニングポイントですね。塚原さんが野球ドラマをやるって言わなかったら実現しなかった作品ですし、そもそも新井さんが野球好きじゃなかったら企画も立ち上がらなかったですし(笑)。感謝してもしきれないです。
──おふたりに言われた言葉で、特に印象的だったものはありますか?
先ほどもお話しましたが、新井さんには「調子に乗るな」ということを言われましたね。「全部、私の耳に入ってくるから。他局でも繋がっているから。私たちが見出したっていうレッテルがつくから頼むよ」って(笑)。
塚原さんには、最初、身体を作ろうと思ってご飯を食べ過ぎてちょっとプヨっとしていたときに「ちょっと今ふっくらしているけど、色気みたいなものがもっと欲しいな」と言われて。それを言われてすぐにジムに行き始めました。それからは塚原さんに会うたびに「色気出てきました?」と聞いていました(笑)。「色っぽく見えると、俳優として得だと思うよ」と、本当に軽く言われたんですが、ジム通いは今も続いています。
──では、これまでのキャリアの中で、お芝居についての発見や気付きがあった転換期を挙げるなら?
それこそ「PICU」ですかね。皆さんの受けのお芝居がとにかくすてきで。あとはお芝居がすごくリアルなんです。ただ、自然だけど自然にしすぎると、つまらなくなるときもある。だけど「PICU」の皆さんは自然なお芝居の中にもドラマ性をちゃんと組み込んでいるので、見ていてとても面白いんです。
あとは吉沢さんの力んでいない感じがとっても好きで。最初、僕は「このシーンをこうしたいから、こうだ」とちょっと力んでいたんです。でも吉沢さんのお芝居を目の当たりにして、「これじゃダメだ、もっといろんなところを柔らかくしないと」と気付きました。
──それは見て学んだのでしょうか? 吉沢さんに聞いたりは?
聞かないですね。見て学びました。そのたびに聞いていたら憧れているみたいでカッコ悪いなって(笑)。
──先ほども「呼ばれたからにはプロとしていたい」とおっしゃっていました。「教えてください」というスタンスでいたほうが楽なんじゃないかなと思ってしまうのですが、小林さんはそうではないですよね。
はい。僕の感覚ですが、そんな人だったら次に呼びたいと思わないかなと。モデルのような写真撮影の仕事は苦手なので、そういう場所では「教えてください」みたいなスタンスですけど、メインは俳優なので、俳優としてはそれではよくないなと思って。
ちゃんとやることをやってくる、しかも想像よりも上のことをやってくる人でありたいし、そんな甘い世界じゃないなと思っています。
TCエンタテインメント
発売日: 2024/04/12