CS衛星劇場にて4月、5月に放送される『VHSを巻き戻せ!俺たちのOVA特集 vol.4』に、「ブラックマジック M-66」が登場。4月2日(火)深夜1:45から放送される。本作はOVAブーム初期の1987年に生まれた名作のひとつで、「攻殻機動隊」や「ターミネーター」のような近未来SF系作品が好きな人であれば、ぜひとも観ておいて損はないはずだ。そもそもOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)は、TVアニメや劇場作のように大衆(マス)に向けたものではなく、コアで熱狂的なアニメファンのために作られた作品群。それゆえ前衛的で刺激的な作品が多く誕生し、90年前後にはファンのあいだで一大OVAブームを巻き起こした。久しぶりにセルアニメが観たい往年のアニメファンはもちろん、80、90年代OVAの世界をのぞいてみたいという人も、ぜひこの機会にチェックしてみよう。
士郎正宗自らがメガホンを取った唯一の作品「ブラックマジック M-66」
「ブラックマジック M-66」の原作は、『攻殻機動隊』で知られる漫画家・士郎正宗が学生時代に描いた「ブラックマジック」の中の一編。ただしストーリーはOVA化に際して大幅改変されていて、これは士郎正宗が「原作を忠実に再現した映像作品」を良しとしない考えを持っているからだったと言われている。
さらに本作で驚きなのは、原作者である士郎自らが監督(共同)、脚本、絵コンテを務めていること。おかげで、レイアウトからセリフ、テンポに至るまで、「士郎正宗らしさ」がフィルムの隅々に散りばめられている。
例えば、アニメーションでありながらも漫画的表現が取り入れられていたり、シリアスでハードな作品なのに、コメディ演出が散りばめられている点などが例として挙げられるだろう。実は士郎正宗が映像作品の監督を務めたのは本作限りで、それだけを取ってもまさにファン垂涎だと言える。
ちなみに士郎正宗とともに共同監督を務めたのは北久保弘之。「機動戦士ガンダム」で動画デビューを果たし、現在も『呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変』などで絵コンテ・演出を務めるなど、長年に渡って第一線で活躍するクリエーターである。
気合が入っているアナログのアクション作画
ストーリーの骨格はとてもシンプルで、軍が輸送中だった2体の「新型対人自動歩兵M-66」が暴走、人々を襲い始め、軍の特殊部隊がその回収を試みるというもの。主人公のシーベル(CV:榊原良子)は、スクープのためにその事件を追うフリーのジャーナリストで、成り行きからM-66との死闘に巻き込まれていくことになる。
士郎正宗が描く、強く賢い女性像は今もって古臭さを感じず、自律思考するアンドロイド、リアリティのある軍事考証など、のちに誕生する「攻殻機動隊」につながる要素もふんだんに取り込まれている。制作から30年近くの年月を経て、なお色褪せない強固な世界観が本作の大きな魅力だろう。
一方で、作画に関しては、すべて手書き&アナログで、いわゆる古き良き時代のセルアニメだ。デジタル処理された現代のアニメに慣れている世代からすると時代を感じるかもしれないが、やはりアナログにはアナログの良さがあると感じさせてくれる。
とくにアクション作画はかなり気合が入っていて、当時のアニメーターたちの豊かな想像力や職人技が随所に感じられる。序盤、森林地帯での軍隊対M-66では、銃撃や拳法などを駆使したハイスピードな格闘戦が描かれ、クライマックスでは崩れゆく高層ビルを舞台にサスペンスたっぷりの決戦が描かれる。全編を通じて大胆なカメラワークと背景動画(※背景を1枚絵ではなく作画として動かすこと)を採用していて、デジタル作画にはない、なんとも言えない気持ちよさが味わえるはずだ。
また車両や兵器、近未来メカなども多数登場し、それらのデザインも見どころとなっている。これら作画面でのクオリティーを支えているのは作画監督の沖浦啓之の存在が大きく、今や言わずと知れた日本トップクラスのアニメーターとなっているのもうなずけるというものだ。