コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、城戸胎生さんが描く『いじめられっ子のハーフと漫画家を目指す話』をピックアップ。“城戸胎生”名義で音楽活動からスタートした作者は、表現の幅を広げるため現在は“漫画家 兼 シンガーソングライター”として活動。本作も投稿漫画を原作とした楽曲が創作されている。
2024年2月27日にX(旧Twitter)で本作を投稿したところ、4.8万件を超える「いいね」と共に、多くの反響コメントが寄せられた。本記事では、城戸さんにインタビューを行い、創作のきっかけや漫画を描く際のこだわりについて語ってもらった。
漫画家を目指す強い意志…いじめに屈せず前を向く、ハーフ女子高生と男子高生
日本人とアメリカ人を両親に持つハーフの女子高生・エルザは、学校でいじめにあっていた。今年から転入してきた生徒で、整った顔立ちに成績優秀、そして異常な気の強さから、クラス中の女子から疎まれていたのだった。そして、他のクラスメイトは誰も助けてくれない。
俊介もそんな“見て見ぬふり”な一人だったが、ある日、エルザが漫画を描いていることを知る。その画力に驚いた俊介は思わずエルザに話しかけ、俊介の熱量を感じたエルザは“自分の漫画を読んでみてほしい”とお願いした。
それから俊介はエルザの編集者となり、作品がより良いものになるようアドバイスをするようになる。依然としていじめは続いていたため、俊介が面倒なことに巻き込まれるのを心配したエルザは“人前での交流は禁止”というルールを作った。しかし、段々と過激になるいじめと、エルザとの距離が縮まったことで、俊介が感じる“見て見ぬふり”に対する胸の痛みも増していった。
それでもルールを守り続けていたが、ある時、クラスメイトに二人が一緒にいたところを見られてしまう。それが原因で俊介は暴力を受け、エルザから預かっていた原稿をビリビリに破られてしまったのだった。
事情を知ったエルザは「描き直してくる」と一言伝えてから、学校に来なくなった。そして、今度は俊介がいじめのターゲットにされてしまう。酷いいじめに、いつしか思考も停止するほど追い詰められた俊介の元へ、エルザからのメモ書きが届き――。
本作は、いじめに屈せず夢を追いかける二人の強い生き様が描かれた作品だ。作品を読んだ読者からは、「めっちゃくちゃ良い!」「絶対に幸せになってくれ… !」「まじでかっけぇなあ」など、二人の夢を応援するコメントが寄せられている。二人の結末は、ぜひ漫画で最後まで楽しんでほしい。
作者・城戸胎生さん「僕の音楽活動ありきの漫画作品だった」
――『いじめられっ子のハーフと漫画家を目指す話』が生まれたきっかけや理由などをお教えください。
まず最初に楽曲『エルザ』の構想が生まれていて、「これにリンクしたコンテンツがもうひとつ同時に存在していたら面白いな」という発想から、「楽曲の世界観をモチーフとした漫画を執筆しよう」ということに至りました。これは僕の音楽活動ありきの漫画作品だったんです。便宜上「漫画原作」なんて言い方をしてはいますが、厳密には「楽曲原作」という言い方のほうが正しいかもしれません。
――本作を描く上で、特に心がけたところ、大切にしたことなどをお教えください。
元となった楽曲が非常に直接的で湾曲のない、勇敢さの原液100%みたいなものとなっていたので、この世界観をしっかり増強できるようパキパキとしたキャラクター像とストーリー展開になるように、と心がけました。
実際にここまでのいじめを受けた経験こそないですが、「大切に抱えているものを卑下される」という悔しさと「それでも負けたくない」という反抗心には身に覚えが数多くあるので、その熱量をもとに楽曲も漫画も仕上がっていった感じです。
詞が生まれたとき「エルザってめちゃくちゃカッコイイ女の子だな」という体感を強く覚えたので、漫画内にもその様子が強く現れるよう彼女の勝気なセリフや振る舞いを散りばめました。体はちっちゃいけれど志はでっかい、おかげさまで魅力的なキャラクターになったと思います。
ちなみに「漫画家の卵がメインの漫画」になったのは、今作が僕の人生で初めて描いたオリジナル漫画だったということの影響も大きいです。初心を描くのは初心の時にしかできないことだと思うので、時間が経つほど「このテーマでやってよかったな」としみじみ思います。
――作中で城戸さんが特に気に入っているシーンやセリフを理由とあわせてお教えください。
いじめを受けていた俊介を庇うため裏山に現れたエルザが、いじめっ子・小田原の胸ぐらを掴み「マジダサい」と一蹴するシーンです。陰湿で冷笑的な周りの態度を自身の熱意とプライドのみで圧倒させるこの展開はまさに僕の理想の形というか、こんなふうな存在でありたいなと日頃から強く思っているので我ながらグッときています。
しかしこのシーンは公開後、「エルザたちの復讐が、受けたいじめに見合っていないからモヤモヤする」という感想もちらほら見受けられて、別の意味でも印象的な部分となりました。僕からするとこの物語は「エルザが『俊介』という居場所を見つけた」「自分の使命を肯定してくれた」「ゆえに自分の道を突き進むことができた」というところにこそ着目してもらいたくて、実はあまり復讐に重きを置いていないんですよね。他人の手に侵されることなく自分の刃を研ぎ澄ますこと、その果てに自分を肯定してもらえる居場所は自ずと現れる。それを信じ抜きたいという僕の思いがこの展開の意図なので、あまり凝ったことはしないようにしたわけです。悪く言えば工夫が無いとも言えますが、やっぱりストレートな思いはストレートな表現じゃないと意味がないですから。
――今作を原作とした曲『エルザ』も創作されています。作詞・作曲から、編曲、映像、歌唱まですべて城戸さんがお一人で作っているということに驚き、感激いたしました。漫画と音楽という2つの方法で作品を表現する魅力をお教えいただけますでしょうか。
僕がこの形に至ったきっかけはミュージシャンの米津玄師さんの存在が大きいです。音楽もイラストレーションもこなしてしまう彼の姿を見て僕は、「ひとりの人間が複数の手段で作品を生み出す」という超人的な能力にものすごく憧れを感じていました。その影響から、作家を名乗り出した段階で音楽も画業も同時並行で始めまして、その果てにこの表現に行き着いた感じです。
このたびは初めて『漫画』という手段を取ったわけですが、それによる一番の魅力は「自分の作るコンテンツの強度が高くなる」という点でした。
物語が明瞭で展開が飲み込みやすい『漫画』からすれば、『音楽』という媒体は内容が抽象的で伝えたいことがまっすぐ伝わらない部分も多いと思います。
一方で、繰り返しリピートして楽しむことが前提の『音楽』からすれば、『漫画』という媒体は刹那的に消費されがちだし一度読み終わったものはしばらく読み返すことがないと思います。
各々の欠点を埋め合わせ、物語を繋ぎ止め、両方の鑑賞をもって作品が完成する。この形態の魅力はその結束力、ゆえの強度にこそ宿っているのだと思います。それを「ひとりで」やっていることも、きっと作品の説得力の一部になっているはずだと信じています。
【動画】本作を原作に作られた楽曲『エルザ』
――今後の展望・目標をお教えください。
今後も同様に漫画と音楽を掛け合わせた作品を作り続けていこうと考えていますが、どこかのタイミングで規模を広げて「ひとりで」ではなく「みんなで」作品作りを始めることも良いかもしれないな、と今は思っています。当たり前かもしれませんが、「全部一人で」をずっと続けるのは本当に大変ですので…!是非とも自分の領域をブチ破るような鮮烈な表現に辿り着きたいですね。
――最後に、読者やファンの方へメッセージをお願いします。
「漫画家 兼 シンガーソングライター」などという非常に情報過多な肩書きを名乗っているせいでビックリした人もたくさんいると思いますが、僕の作品が何某かあなたの琴線に触れることができたのならそれ以上の喜びはないです。誰にどんな風に捉えてもらおうと、僕は真摯に表現を続けていきたいと思います。どうかこの先も見届けて頂きたい!