「ムーラン・ルージュ」「めぐりあう時間たち」「誘う女」「バットマン フォーエヴァー」「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」「愛すべき夫妻の秘密」「ライラの冒険 黄金の羅針盤」「ある少年の告白」「スキャンダル」「デイズ・オブ・サンダー」「オーストラリア」など、数々の名場面を見る者の五感に刻み込んできたニコール・キッドマンが、6月20日に57歳の誕生日を迎えた。ニコールといえば、ハリウッドで最も活躍する俳優の1人として知られるオーストラリア出身の名優。演技だけでなく、現地時間の6月13日に参加した映画「ファミリー・アフェア」アメリカ・ロサンゼルスプレミアで、今も変わらぬ美貌を披露したのも記憶に新しい。そんな彼女のキャリアを紹介する。
そうそうたる顔ぶれに並んだ希代の名優
オーストラリア人として初めて「AFI生涯功労賞」も受賞したニコール。AFIとはAmerican Film Instituteの略で、映像に関するさまざまな活動を促進するアメリカの団体のこと。生涯功労賞は1973年に創設され、映画またはテレビにおけるキャリアがアメリカ文化の豊かさに大きく貢献した個人を表彰するもの。歴代受賞者にメリル・ストリープ、ジュリー・アンドリュース、デンゼル・ワシントン、ロバート・デ・ニーロ、マーティン・スコセッシ、スティーブン・スピルバーグ、クリント・イーストウッドなどそうそうたる顔ぶれが並ぶ、いわばハリウッドのレジェンドたちが受賞してきた賞だ。
ニコールは1967年6月20日生まれ、1983年にオーストラリアでコメディー「BMX Bandits」の美少女ジュディ役で注目を集め、1989年にはやはりオーストラリアのサスペンス映画「Dead Calm」に登場。日本のテレビ局で放送されたときには「デッド・カーム/死の航海・狙われた人妻」という邦題がつけられていたが、この「狙われた人妻」=レイ・イングラムを演じている役者こそが若きニコールであった。
その後アメリカのトップ俳優、トム・クルーズと1990年の映画「デイズ・オブ・サンダー」で共演、公私共にパートナーとなった(2001年に離婚)。「トム・クルーズの妻であること」がニコールの国際的な知名度アップに貢献する要素の一つであった。認知を得られてこそ、一流のエンターテイナーである。人々の関心を呼び起こすことができれば、あとは実力で訴えればいい。
1995年公開のガス・ヴァン・サント監督映画「誘う女」ではとにかく有名になりたくて出世していくが、それにつれて夫に複雑な気持ちを抱くニュースキャスターという、味わい深い役を演じ、「ゴールデングローブ賞」主演女優賞を獲得。2002年公開のスティーブン・ダルドリー監督映画「めぐりあう時間たち」ではアカデミー賞の主演女優賞に輝いた。ほか、ゴールデングローブ賞、プライムタイム・エミー賞など数々の栄誉を獲得し、現在に至る。
日本では“人生100年時代”との声もある昨今、57歳と言えば「覇気」と「深み、円熟」の両方がそなわる年齢。今後の活躍をますます期待せずにはいられない。個人的には現在の夫がカントリー歌手のキース・アーバンであることに加え、バズ・ラーマン監督映画「ムーラン・ルージュ」での演唱、シンガーソングライターのレニー・クラヴィッツやラッパーのQティップとの交際、元“テイク・ザット”のロビー・ウィリアムズが発表したジャズ系アルバム『Swing When You're Winning』へのゲスト参加も印象深かったから、音楽に関連した、彼女が歌い、演奏し、ライブに行き、目いっぱいレコードを漁るような、そんなストーリーを持つ作品に出会えたらなあ、とも思っている。
ヒュー・ジャックマンとW主演の話題作
2023年からディズニープラスのスターで配信されているニコールとヒュー・ジャックマンのW主演作「ファラウェイ・ダウンズ」にも、全6章からなる壮大なストーリーの中に、「シング・シング・シング」や「オーヴァー・ザ・レインボウ」といった名曲がちりばめられている。この作品は2008年公開のバズ・ラーマン監督映画「オーストラリア」の拡大版ともいえるもので、よりアボリジニの視点が強調されているように感じた。
突然消息をたった夫の後を追い、たった一人でオーストラリアの地に降り立ったイギリスの貴婦人サラ・シュレイ夫人(ニコール)は、現地で出会った粗野なカウボーイのドローヴァー(ジャックマン)と共に、夫が所有する牧場「ファラウェイ・ダウンズ」に向かう。しかし、たどり着いた牧場で待っていたのは寂れた家屋と荒れ果てた不毛な大地だった。謎の孤児ナラと出会い、3人でオーストラリアの壮大な自然を旅する中で、サラは牧場を再び立て直すことを決心する。警察や軍といった強大な力に立ち向かい、必死で戦う3人にはやがて強い絆が結ばれていく――というストーリー。
物語の設定は、主に1939年9月から1941年12月にかけて。この時代のドイツ、ポーランド、イギリス、フランス、アメリカ、日本がどんな状況であったのかにも思いをはせつつ見ると、物語から受ける「痛み」「切なさ」も増す。
この長編に出演することは、オーストラリアの国籍も持つニコールにとって、一大ターニングポイントだったのではなかろうか。しかも彼女が役者になろうと思ったのは、子どもの頃、映画「オズの魔法使」でマーガレット・ハミルトンの演技に感激したことがきっかけであったという。「オーヴァー・ザ・レインボウ」が、「オズの魔法使」の主題歌であったことはいうまでもない。オーストラリアと「オーヴァー・ザ・レインボウ」、この「ファラウェイ・ダウンズ」にはニコール・キッドマンの二大ルーツがある。
◆文=原田和典
https://www.disneyplus.com/ja-jp/series/faraway-downs/
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