長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は『30日間ずっとKiss ~君とキスしていたい~』(テレ東系)をチョイス。
Kissとは一体何なのだろう『30日間ずっとKiss ~君とキスしていたい~』
相手と唇を重ねると、なにか良い具合になる、というのは、人間の本能として備わっているものなのだろうか。キスという行為はどうもヘンである。それ自体に生殖行為も備わっていない。キスという行為は、生物として、何ら必要のないものであるどころか、大量の菌を交換する行為に他ならない、という言説も幾度となく耳にする。しないで済むならしないほうが良いものだというのは間違いないだろう。
それでも人はキスをする。さて、このキスという行為が、人の感情にどういう影響を及ぼすのかを解き明かす、実験的恋愛リアリティ番組が、『30日間ずっとKiss ~君とキスしていたい~』だ。タイトルから分かる通り、3組の男女が、30日間ずっとキスをする。彼らは初対面で、相手のことを何も知らない。そのうえで行われるキスは、彼らに一体どんな作用をもたらすのだろうか……。
私の鑑賞した第1話目では、彼らの出会いと、最初のキスの様子が描かれるだけで、これからどうなるかは未知数なのだが、初対面でいきなりキスをしてしまいましょうという試みは非常に興味深い。付き合う付き合わないとかそういうのは関係ナシに、互いにしたいと思って、その意思を互いに確認できたのなら、キスくらい別にすればいいと思うのだが、実際問題、キスをしたいという意思を互いで共有する術が無いというのが問題なのだ。まっとうに共有ができたのならばそりゃする。片方の意思を確認できないまま事に及んでしまうのは、とても危険で、許されない行為である。たとえ互いにしたいと思っていても、その成就には、互いの尊厳を守るための細かいプロセスが必須となる。どちらかの妥協によって成り立つ性交渉は暴力となんら変わらない。たとえ相手が「YES」と発しても、もしかするとそれは、こちらの威圧に因るものであるかもしれない。言葉は言葉で意思は意思、まったくの他人が意思を共有するというのは、とてつもなく難しいことなのだ。
その事実をふまえてこの番組を見ると、30日間ずっとキスをします、という名目のもとに集まった彼らの、すでに一段飛ばしたコミュニケーションが興味深くなってくる。実直なコミュニケーションのフィナーレともいえるキスが、何の歴史もなしに、こうも簡単に行われている。なにか良くないものを見ている気にまでなってくる。ただぼーっと見ているだけでも、こんなにあたふたと慌てふためいてしまうのだから、やはりキスというものの正体は突き止めねばならないし、このドラマの結末を見届けねばならないだろう。
■文/城戸
城戸(きど)
X(旧Twitter):@sh_s_sh_ma1996年生まれ。映画を観るのが好きなフリーライター。オモコロなどWEBメディアを中心に活躍。
▼TVerで「30日間ずっとKiss ~君とキスしていたい~」を見る▼