「できるだけ嘘を少なくしたい」実在する街を舞台とする理由
――舞台となっている歌舞伎町に対して持っていたイメージと、今回取材したことで、新しくあった発見はありますか?
昔は、歌舞伎町って撮影できなかったんですよね。何度かチャレンジしたこともあるんですけど、なかなか難しくて。それ以来、足が遠のいていました。ただ、今回ドラマをやることになって、ぶらぶら歩いて思ったのは、若い人が多い。あとホストクラブの多さに驚きました。
昔は逆だったと思うんですけど、今は女性がお金を落としていく場所なんだなと。それで、ホストについても調べてみたら、「年収1億円」とか謳ってて。カルチャーショックを感じました。僕が20代のころに行っていた歌舞伎町とは全然違う。でも外国人の方は相変わらずたくさんいて。それぞれのカルチャーがいろんな場所にある、猥雑な感じがおもしろいなと思いました。
――実際にある街を舞台とするときに、解像度を高めるためにどんなことをしているのでしょう?
ガイドブックやインターネットの情報は、どうしても見せたいところだけを書いているので行って経験した、体感したものの方が筆が乗りますね。なので「そんなことは聞いたことない」「それは初めて聞いた」っていうものを探しているような気がします。木更津に行ってみないと街にタヌキがいっぱいいるとか知らなかったですからね。
――なぜ実際の街を舞台にするのでしょう?
ドラマがすごく向こう側の、自分の生活とは関係ない場所の関係ない物語だと思われたら損だなって思っちゃうんです。やっぱり新宿行ったら、あのダメな医者たちがここで生活してるんじゃないかと思ってほしいし、嘘ではあるんだけどなるべく嘘の数を減らしたいというのが昔からあって。
なので、普段話している会話の中に実在の人の名前を出したり、固有名詞を入れたりして、僕らが普段話してる会話と同じような会話を劇中の人たちもしているように見せたいなと思っているんです。
「一石を投じよう」という気持ちはない
――『不適切にもほどがある!』(2024年、TBS系)が大変話題になり、今回も「どこまで見せてくれるんだろう」と期待している視聴者が多くいます。今回は、どこまでチャレンジしようという気持ちでしょうか?
『不適切〜』も「一石を投じてやろう」と思って書いたわけではなかったんです。話題にしていただけるのはありがたかったですが。ただ、チャレンジしたいことでいうと、『池袋ウエストゲートパーク』や『木更津キャッツアイ』をやっているときも意識していたこと「歌舞伎町に行ったら、どっか角を曲がったら病院があるんじゃないか」って思ってもらえるような身近に感じてもらえる作品にできたらいいなと考えています。
――社会問題をコメディーにするにあたって、気をつけていることはありますか?
「怒られるんだろうな」と思いながらやっています。「怒られるかもしれないな、でもなるべく怒られたくないな」と思って、いろんな人にチェックしてもらって。「大丈夫ですよ」って言われるけど、結局怒られるという(笑)。
それはでもしょうがないですよね。今そういう意見を怖がっていたら、「何にもできなくなっちゃうんだろうな」って思いますから。本当にあることをただ「本当にあるんだよ」って言いたいだけなんですけどね。
中途半端にしたくない。誰かをことさらに攻撃したり、片方だけ悪みたいにはしたくはない。両方の側面を提示して、見た人が多少「そういえばそうだな」って考えてくれたりしたらいいなと思いながら、1・2話を書きました。
――平成から令和にかけて、価値観がどんどん変わっていく中で創作への向き合い方に変化はありましたか?
1回忘れるっていうか、自分の社会性を1回捨ててバカにならないと、本当のことが出てこないと思います。口で言ってみたけど、みんななんとなく怖くて使ってない言葉も、別に言っちゃいけないことじゃないんじゃないかとか。
それで炎上してるとかみんなで騒いでるけど、これ「よく考えたらそうでもないじゃん」とか、そういうことの見極めが、今どんどん難しくなってきていますよね。「本当にそうかな」ということは、いつも一旦考えるようにしてます。
あと、やはりコメディーを作っているのでウケないのは嫌なんです。過激なことを言うのが目的ではなく、ウケたいだけ。だから、ウケないってことは、今の世の中に必要ないんだなと思うんですけど、ただこれ言わないと、このテーマは使えないっていうところは、ちょっとバカなふりして、一旦提出して、いろんな人にチェックしてもらうようにして、みんなで考えながら作っています。
――最後に放送を楽しみにしている皆さんに一言お願いします。
1話だけで判断しないで最後まで見てほしいですね。「あれ?医療ドラマって聞いてたのに」とか言われちゃうかもしれないんですが、徐々に医療ドラマになっていくし、必ずしもまともな人たちばっかり出てくるわけじゃないけど、だんだん出演するキャラクターたちを好きになっていってもらえるといいなと思いながら書いているので。期待しすぎないで、粗探しせずに2話以降も見てくれるとうれしいです。
◆取材・文/於ありさ
TCエンタテインメント
発売日: 2024/08/28
バップ
発売日: 2024/03/27