本来であれば“守る”ためのものであるはずの「コンプライアンス」というワードが、近年はそれを武器に攻撃する時代になっている。もちろん本来守られてしかるべきコンプライアンスはあるし、今思えばなぜそれが許されていたのだろうか…と小一時間考えなければいけないこともあるのは事実。今まで意識低い系だったのだろう。みんなが目を向けた結果、ドラマや映画などのフィクションの世界でも十分過ぎるくらい配慮しないと炎上してしまう時代になった。昨今の情勢を逆手に取った「不適切にもほどがある!」(TBS系)がヒットしたのも何だか皮肉だ。そんな言いたい事も言えないこんな世の中だからこそ、反町隆史が“コンプラ上等”のイチ教師=鬼塚英吉役で主演を務める「GTO」をみんな待っていた。同作が26年ぶりに復活を遂げ、「GTOリバイバル」として4月1日にフジテレビ系で放送されると、令和でもブレない鬼塚の姿、懐かしのキャスト再演も大きな話題になった。7月1日にはLeminoでも配信が始まったということで、本作の魅力に迫る。(以下、ネタバレを含みます)
26年ぶりの新作ドラマ
「GTO」は、藤沢とおるの同名漫画を実写映像化したもので、1998年に連続ドラマとして放送された。元暴走族で立場や損得とは無縁の高校教師・鬼塚英吉(反町)が、本音をぶつけ合い命懸けで生徒に向き合うことで、社会の裏側にくすぶっている問題を解決していく学園ドラマ。放送当時、大掛かりなロケーションや予想を裏切るストーリー展開、そして反町の情熱的で力強い演技が話題を呼び、全12話の平均視聴率(世帯)は関東地区で28.5%、最終回は35.7%(いずれもビデオリサーチ調べ)と、高視聴率を記録した。また、反町自身が作詞し、歌い上げた主題歌「POISON~言いたい事も言えないこんな世の中は~」も大ヒットしている。
このほど26年ぶりに新作スペシャルドラマとして復活した「GTOリバイバル」では、かつて“グレート・ティーチャー・オニヅカ=GTO”と呼ばれた鬼塚が問題だらけの高校に教師として赴任し、悩みを抱えた令和の高校生たちに鬼塚流の熱血授業を展開。池内博之演じる村井国雄や、小栗旬演じる吉川のぼる、窪塚洋介演じる菊池善人ら連続ドラマ「GTO」時代の主要な生徒たちの再登場、反町と松嶋菜々子の夫婦共演も実現した。また、鬼塚が赴任する私立相徳学院高校の生徒役キャストは畑芽育、日向亘、八木莉可子、小林桃子、金子みゆら1998年当時には生まれていない世代のフレッシュな面々がそろい、教師役には岡崎紗絵、小手伸也らが名を連ねた。
「GTO」リメイク版が2012年、2014年に連続ドラマで放送されたこともあり、もう反町主演版「GTO」の続編は作られないのかなと思っていた人もいたことだろう。ただ、実は反町のもとにはこれまでにも何度か「『GTO』をやりませんか?」という話がきていたそう。その時は制作に至らなかったが、「今このタイミングで復活することに意味があると思い、今回は自分から声をかけさせていただきました」と反町自ら封印を解いた。26年の時を経て「私自身2人の子どもを育てた今、果たしてどんな鬼塚を演じられるのだろう、そして、現代ならではの問題や悩みを抱えた令和の高校生と鬼塚の生きざまがどのような化学反応を起こして、視聴者に何を伝えることができるのだろう、と興味を持ったからです」と、反町は令和の今に復活した経緯を明かしている。
鬼塚がフードデリバリーの配達員に
鬼塚が高校を30校クビになってフードデリバリーサービス“ビーバーイーツ”の配達員として働いているという設定も現代っぽいが、フォロワー数200万人の暴露系インフルエンサー“裁ノカ笑(さいのかわら)”にネットにさらされて被害を受けている教師や生徒が大勢いるというところも令和ならでは。しっかり現代の物語になっているが、鬼塚は26年前と同じく生徒と同じ目線で全力ではしゃいだり、曲がったことは許さない真っすぐなところは変わらない。生徒に頼まれればTikTokも一緒に踊って撮るし、承認欲求を満たすためにパパ活をしてしまった生徒にはチェーンソーを使って熱血指導。ゴリゴリのパワープレイに思えるが、ただ頭ごなしに叱るのではなく、その子の良いところもちゃんと見ていることを伝えつつ。その結果、裁ノカ笑に「暴力教師」と炎上させられることになってしまったのだが、大切な生徒を守るためには手段を選ばず、コンプライアンスなどは二の次なところが鬼塚らしい。
何より演じる反町がヤンチャな鬼塚のその後をそのまま体現してくれているのも素晴らしい。ちょっとしたおちゃめなしぐさ、怒った時の迫力、ちょっとスケベだけど決める時は決める“イケオジ”っぷりに脱帽だ。連ドラ時代もそうだったが、こんなに何でも全力で付き合ってくれて、共に遊び、体を張って学び、時にはあえて突き放すこともあるけど、いざという時は全力で守ってくれる先生がいたら学校はもっと楽しかっただろう。
もちろん鬼塚だけでなく、今や日本を代表する俳優であり、事務所の社長もこなす小栗がのぼるを演じると見事にそれっぽく見えるし、秀才・菊池を演じる窪塚、悪ガキだった村井役の池内やマサル役の山崎裕太、依田ケンジ役の徳山秀典もそうで、それぞれ年相応に大人になった元生徒たちをしっかり表現している。当時リアルタイムで見ていた世代としてはエモさもマシマシだ。極めつきは終盤の反町と松嶋夫婦の共演シーン。連ドラ放送当時はまだ私生活で結婚前だったが、結婚後の2人も変わらずあの頃の“鬼塚と冬月の空気感”に見えるのは、彼らの演技力の賜物であり、ずっと見守っていたくなった。このシーンだけでも見る価値は十二分にある。
願わくばこの世界線のまま、新たな学生たちを相手に教鞭を執るグレートな反町“鬼塚先生”の姿を連続ドラマで再び見たいものだ。
◆文=川崎七範
角川映画