モンテカルロ・テレビ祭の主演男優賞を受賞
カンバーバッチは、実在の人物をモデルにした役を演じることも多い。2004年、英国BBCで放送されたテレビ映画「ホーキング」では、難病のALSを患いながらも一般相対性理論と量子力学を統合する“量子重力論”を提示するなど、量子宇宙論という分野を形成させた理論物理学者スティーヴン・ホーキング博士を演じた。この作品で、モンテカルロ・テレビ祭の男優賞を受賞している。
2014年の「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」では、第二次世界大戦中にナチスのエニグマ暗号機の解読に取り組んだ数学者で暗号研究者のアラン・チューリングを演じた。不遇な日々を送っていたチューリングは、友人クリストファーに教えられて暗号の世界にハマっていった。そしてイギリスがドイツに宣戦布告した年に、チューリングはナチスの暗号機エニグマを解読するチームの一員になる。天才ゆえに協調性を欠き、孤立しがちだったが、キーラ・ナイトレイ演じるジョーン・クラークが同僚との間に入って場をとりなし、結束力を固めることができた。自分の頭脳や考え方に自信があり、冗談が通じないタイプ。そういった孤高の天才を見事に演じ、アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされた他、タイム誌の「2014年俳優による演技トップ10」で第1位に輝いている。
2017年の「エジソンズ・ゲーム」は、発明家トーマス・エジソンの伝記映画で、電力の供給方法を巡って直流送電派のエジソンと交流送電派のジョージ・ウェスティングハウスの電流戦争の様子が描かれている。この作品でカンバーバッチはエジソンを演じた。この作品では主演を務めたほか、製作総指揮にも名を連ねている。
ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門で銀獅子賞を受賞
2021年、「スパイダーマン」シリーズのヒロイン“MJ”ことメリー・ジェーン・ワトソン役でおなじみのキルスティン・ダンストとの共演作「パワー・オブ・ザ・ドッグ」もヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門で銀獅子賞を受賞するなど、重要な作品の一つだが、同年公開の「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」も避けて通れない名作。この作品も人名がタイトルになっているが、ルイス・ウェインは19世紀末から20世紀にかけてのイギリス・ビクトリア時代の画家で、彼が描く擬人化された猫の絵は人気だった。夏目漱石の「吾輩は猫である」に登場する絵はがきの作者でもある。ウェインを演じたカンバーバッチは、作品は有名だがウェイン自身がどんな人物なのかはよく知らなかったという。演じたことでウェインの芸術的才能に魅力を感じたようだ。カンバーバッチ自身、絵を描くことが好きで、親近感を抱いたとも作品の公式サイトのインタビューで語っている。この作品も主演兼製作総指揮を担当した。
「エジソンズ・ゲーム」「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」で製作総指揮も務めているカンバーバッチ。他にも「クーリエ:最高機密の運び屋」(2020年)や「モーリタニアン 黒塗りの記録」(2021年)も製作に関わっており、近年は出演するだけでなく作品づくりにより深く携わる傾向にあるようだ。Netflixで配信されているドラマ「エリック」で主演を務め、怪演ぶりを発揮しているが、この作品も制作に彼の名前を見ることができる。
まだ正式発表はないが、「アベンジャーズ」シリーズ第5弾に出演するという話も聞こえてきた。48歳のカンバーバッチが、今後どんな名演を見せてくれるのか楽しみだ。
◆文=田中隆信
https://www.disneyplus.com/ja-jp/movies/doctor-strange-in-the-multiverse-of-madness/
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