制作統括・宇佐川隆史氏が語る“神戸編”、そしてキャストの魅力
――神戸編についてお聞かせください。
“朝ドラ” は、見た人の一日を元気にし、明日へと希望をつなぎ、人生を豊かにするもの。そんな朝ドラで、真正面から震災を描いてもいいのか。きっと見ることができない人もいるのではないか。制作チームの間で何度も話し合う中で、さまざまな葛藤がありました。それでもなお、阪神・淡路大震災からまもなく30年となろうとする今こそ、朝ドラで震災を描く意味があるという結論に至りました。
かつて起こった出来事を、決して忘れないこと。そして今も被災されている方々の苦難を、他人事ではなく、自分事として感じてもらうこと。 朝ドラだからこそ、それが叶えられるのではないかと考えました。テレビの向こうで、かつての悲しみやつらい思いに寄り添い、未来への願いへとつながってほしいという、祈りにも似た強い覚悟で「おむすび」というタイトルをつけました。
また、事前にここまでドラマの内容を告知することについても、さまざまな意見がありました。しかし、不意に震災の様子を目にしてしまい、震災経験者の方々、さらには今も避難されている方々を傷つけてしまうことを、できる限り避けたいという思いから、今回、このような形で発表させていただきました。
主人公が震災で何を感じ、その後の人生に影響していくのか――詳しくはまだお話できませんが、米田結は後に栄養士となり、食の知識で心と体を支え、人々の未来を結んでいきます。「おむすび」というタイトルに込めたこの思いが、少しでも皆さんの心に届けられるよう、チーム一同、全力で制作したいと思います。
――神戸編キャストについてはいかがですか?
神戸編の脚本作りをする中で見えてきたものは 、“人”でした。震災を通して、人という存在のはかなさや弱さも感じれば、底知れぬ強さを感じたりもする―― そうした“人そのもの”を、誤解を恐れずに言えば愚直に、全身で表現していただける方々に、光栄にも演じていただくことができました。
靴店店主・渡辺孝雄は、口下手で頑固だが、一途で繊細な心を持っている職人。人としての強さと弱さ、その両方を抱えた難役を、緒形直人さんに演じていただけることになりました。緒形さんは、まさに“全身全霊”という言葉がふさわしい方。方言の練習一つとっても、“神戸で生きてきた人になる”という思いが強くあふれていて…役に全力で向き合うお姿は、職人魂を持つ孝雄そのものです。
惣菜店を営む佐久間美佐江は、いつも元気に商店街の皆を奮い立たせてくれるムードメーカーです。演じていただくキムラ緑子さんは、私たちもかねて全幅の信頼を置いているお方です。現場でも私たちをいつも笑顔にしてくれ、美佐江さんと同様、非常にパワフル!一方で、避難所ロケの際には、被災経験者の方に積極的に話しかけられたりと、誠実に向き合っていらっしゃいました。
神戸市職員の若林建夫は、神戸が好きで、地元のために尽力したいと思っている人物です。演じていただく新納慎也さんは、神戸市出身。「ブギウギ」に続いて朝ドラ2年連続出演ですが、どうしてもこの若林を新納さんに演じてほしいとお願いしました。お芝居は本当にキュート。決して派手な役ではありませんが、新納さんの神戸愛、そして“神戸ことば”を、若林を通して感じてください。
一方、テーラーの高橋要蔵役は内場勝則さん、小学校教師・大崎役はミルクボーイの内海崇さんに演じていただきます。内場さんには、神戸の方々が持つ気品とおちゃめさを。内海さんには、真面目さがゆえのおかしみを、楽しんで演じていただいております。また、商店街のまとめ役・福田康彦を演じていただくのは、連続テレビ小説でもおなじみの、岡嶋秀昭さん。主人公の父・聖人を陰ながら支え続ける、よき隣人を温かく演じていただきました。
そして今回、避難所でのシーンを撮影するにあたり、毎日100人以上もの神戸の方々に、エキストラとしてご出演いただきました。実際に避難所生活を経験された方も、当時まだ生まれていなかった若い方も、私たちと一緒にこの物語を伝えようと演じてくださったこと、心から感謝申し上げます。