コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、涼森弐敷さんが描く『堂々と魚を盗られるだけの話』をピックアップ。
2024年6月25日にX(旧Twitter)で本作を投稿したところ、3.7万件を超える「いいね」と共に、多くの反響コメントが寄せられた。本記事では、涼森弐敷さんにインタビューを行い、創作のきっかけや漫画を描く際のこだわりについて語ってもらった。
水辺の守り神“水鷺様”と出会った釣り人の話
とある男が川で釣りをしていたら、ひと際大きな鷺が近づいてきて男の魚籠(ビク)を覗き込んできた。そして、中に魚があるとわかると、ひょいと前足で掴んで食べ、さらに魚籠ごと持ち去ってしまった。男はあまりにも突然の出来事に、ただただ驚くばかりだった。
村の老婆によると、大きな鷺は水鷺様(みさぎさま)といい“水辺の守り神”だという。そして、人前に滅多に現れないという水鷺様に魚をあげた(実際には盗られてしまった)男に「福を運んでくださる」というのだった。
数日後、男はまた水鷺様と出会うことになる。水鷺様は、あの日に男から奪っていった魚籠を持っていた。そして、男に近づき魚籠の中身を見せてきたのだ。中には立派な鰻!老婆の話を思い出した男は、先日の魚のお礼に鰻をくれるのかと期待するのだが――。その後の水鷺様の行動に思わずクスっと笑ってしまうような結末が待ち受けている。
本作の投稿に読者からは「水鷺様イケメン」「ドヤってるのかわいい」など水鷺様に夢中になるコメントが集まり、「この何気ないやり取りが福なのかも」という声も寄せられた。
作者・涼森弐敷さん「人外というジャンルの奥深さはとても一言で表せるものではない」
――『堂々と魚を盗られるだけの話』を創作したきっかけや理由などをお教えください。
休日の息抜きです。この作品を描いた頃はまだ会社員だったため、平日はあまり創作をする時間を取れなかったので、休日に時間を使って創作をしていました。
ただこの作品を使ってバズろうとかマネタイズしようなどの考えは全くありませんでした。新しいキャラを作ったからちょっとした漫画を描いてみようかな、と思い立って描き始めたのがきっかけでした。
――X(旧Twitter)の投稿には、多くの“いいね”やコメントが寄せられていました。今回の反響をどのように感じていらっしゃいますか。
(再掲のものではなく初投稿時は)SNSで15万いいねを超える所謂バズりをしたのが初めてだったので、素直に驚きが一番大きかったです。特に自分の描く人外はあまり一般受けしない人面獣などが多いので、同じ嗜好の人以外にもこんなに見てもらえるとは夢にも思っていませんでした。
――水鷺様の見た目や行動にコメントを寄せる読者も多く見受けられました。涼森さんの漫画には本作以外にも“人外”が出てくる作品が多い印象ですが、“人外”の魅力や描く際に力を入れているポイントなどをお教えください。
自分が人外を描くときに一番に意識するのは、私のファンでもなんでもない人の気持ちに立って、それを初めて見た時に「怖い、不気味」と感じるが見ているうちに「可愛いかも…?」と愛着が湧いたり、その逆で初見で「可愛い!」と思ったのにその生態を知るほどに「恐ろしい」と感じさせるデザインや習性にするということです。
人外というジャンルの奥深さはとても一言で表せるものではないのでこの場で魅力を語りきることは難しいですが、自分が人外ジャンルの一番の魅力だと感じる部分は、人間の理に縛られない自由度、ですね。その見た目の自由度もですが、その人外がどの程度人間の社会や倫理観に近いのかでキャラクター性も大きく変わってくるので作家ごとの好みやセンスがダイレクトに見えてきて面白いです。
――本作の1ページ目には、水鷺様の後ろにもう1羽、鳥の姿が見えるのですが、この鳥は普通の“鷺”なのでしょうか?それとも、番いであったり、この鳥もまた特別な存在なのでしょうか?
普通の鷺です。一コマめから出てきている鷺も水鷺様ではなく普通の鷺です(水鷺さまの登場は3ページ目から)。最初に普通の鷺を登場させておくことで、後から出てくる人面の水鷺様の異様さを引き立てる意図があります。
ちなみに、水鷺様も神様や妖怪などではなく、人間が勝手に崇めているだけの、血が通ったただのそういう生き物です。嘴がある鷺と人面の鷺がたまたま一緒にいるだけなのです。
――今作の中で、特にお気に入りのシーンを理由とあわせてお教えください。
やはりラスト2ページのうなぎを自慢しにしにきただけの水鷺様ですね。先述した、人間の理に縛られない人外という点がここでもまろやかに表現されています。
人間である釣り人は「魚を盗まれた」「詫びでも入れにきたのか?」と思っているわけですが、そもそも水鷺様からしたらそこにあった魚を取っただけで盗むという概念もないわけです。当然釣り人のことなど、偶然そこにいた変な生き物くらいにしか思っておらず、自分が捕まえた魚を特別に見せてやろうとしか思っていません。
人間の道理など知ったこっちゃない、という水鷺様の行動と、それに最後まで翻弄される人間という図がとてもお気に入りです。
――最後に、読者やファンの方へメッセージをお願いします。
いつもあたたかい応援をありがとうございます!
最近は商業漫画描きとしてスタートを切ったばかりで全然SNSに絵の投稿ができていなくて申し訳ないです。今は自分の中で修行と挑戦の時期なので、ゆっくりではありますがその歩みを見守っていただけますと幸いです。今後もさまざまな場所で作品を公開していく予定ですのでどうぞお楽しみに!