コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョンマンガ部」。今回は、漫画『戯画☆桃太郎奇譚』第4話をピックアップ。作者であるイラストレーターの友野るいさんが、2024年7月19日に本作をX(旧Twitter)に投稿したところ、7000件を超える「いいね」や反響が多数寄せられた。本記事では友野るいさんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについて語ってもらった。
“反抗期”を迎えた悪魔のあっくん
警察官の抱一は、悪魔の赤ちゃん、“あっくん”に寄生されてしまった。そんな抱一を監視するべく派遣された、ベテランエクソシストの後藤。2人とあっくんは、淀橋署の一時留置封印房で過ごしている。
最近、あっくんの機嫌が悪い。そんなあっくんは今、新聞を読んでいる後藤の顔を、ゆっくり撫でる嫌がらせをしている。
その近くで鈴カステラを食べていた抱一が「あっくんも鈴カステラ食う?」と言ってあっくんを呼ぶ。すると、あっくんは後藤の新聞を「バリーッ」と突き破って、抱一のもとにやってきた。抱一が「ウェイ」と鈴カステラを差し出すと、威嚇をするように何かを言って「バシッ」と勢いよく奪い取るあっくん。
それをみていた後藤が「あっくん、抱一さんせっかくあっくんと一緒におやつを食べようと思ったのに…」「そんな威嚇されたら悲しくなっちゃうよ」と笑いながらあっくんに注意をする。
でも、実際は威嚇ではなく、抱一にしっかりとお礼を言っていたあっくん。抱一はあっくんの言葉がわかるため、しっかりと伝わっていたようだ。
しかし抱一によると、あっくんはここ最近イラついたような態度を見せており、ずっとワガママを言っているらしい。それを聞いて「おもしろっ…」「人間でいう第一反抗期か?」などと関心を寄せる後藤。
その直後、あっくんがなにやら抱一に話しかけた。しかし「やだよ」といって抱一は取り合おうとしない。どうやらあっくんに、「自分の臓物ぶち撒けて、腸で縄跳びしながら歌え」と言われたらしい。
抱一は「ダメだよ!そんなワガママ言ってもきかないよ!」「プイだよ」とツーンとした態度をとる。するとあっくんは「フッ」と笑い、子供用の小さなフォークをスッと取り出して「チク」と抱一の足を刺し始めた。
「え!痛っ!チクすな!」「なんでそんなことすんの?やめて!」と言ってもあっくんは手をとめようとしない。挙げ句の果てには、チクチクとしつこく抱一に攻撃をはじめてしまい…。
この物語を最後まで読んだ人たちからは、「あっくんかわいすぎ」「かまちょな反抗期」「なにこのかわいい生き物…」「チクチク攻撃するあっくんずっと見ていたい」「あっくんの嫌がらせジワる」など反響の声が寄せられている。
愛猫からインスピレーションを受けた“あっくんのイタズラな仕草や表情”
――『戯画☆桃太郎奇譚』第4話を創作したきっかけや理由があればお教えください。
4話に関して言えば、年齢も職業も違う、上司と部下という権力勾配も無い後藤さんと抱一という二人の男性キャラクターがあっくんを介して繋がるわけですが、そんな二人がどのような関係性を築き、どのように連帯してあっくんを育てているのかが垣間見れたら面白いかな、という事で構想を練りました。
4話に限らず2話なんかはわかりやすいですが、強さや男性らしさを鼓舞し合うような関係性ではない男性同士のケアや関係性を描ければと思いました。
ギャグをベースにしているのでハチャメチャになってますが、そういう関係性を意識しています。
――顔をゆっくり撫でる嫌がらせをするあっくんの姿を見て、思わず笑ってしまいました。本作を描いたうえで「こだわった点」あるいは「ここに注目してほしい!」というポイントがあればお教えください。
「こだわった点」というか、常に気を付けないと危ないなと思っているのが、笑いの方向性です。自分の倫理観を一切信用できないので、良くないイジリや茶化し、特定の属性への差別表現や偏見を広める描写に気を付けるようにしています。
気を付けていても出てしまう事はあるので、完璧ではありませんが気にしています。この制作を通して何かを笑うというのは、非常に暴力的な側面をもった紙一重の行為なのだなと再認識しているところです。
――特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。
これは読者の皆様には伝わらないのですが、前提として抱一は恵まれない少年時代を過ごしたという設定があります。あっくんは抱一が失った幸福な少年時代の象徴(だからあっくんの言葉は抱一にしか理解できない)で、後藤さんは抱一が少年時代に接する事のなかった社会正義や倫理観の象徴として描いています。
なので、4話6Pの2コマ目で後藤さんがあっくんに「我々はいつだってあっくんの味方だよ」と、その存在を肯定するシーンは設定を決めている自分の立場からすると象徴的なシーンとなりますので、そのくだりが好きですね。
――普段作品のストーリーはどのようなところから着想を得ているのでしょうか。
パートナーに相談しています。商業作品ではありませんので、編集者の方の客観的意見は存在しません。どうしても内向きになって客観性が欠けますが、そういう時にパートナーに相談することで、良いアイディアや改善策をもらう事ができています。
特に4話は、「抱一に対してはいい加減な態度のあっくんが、同じことで後藤さんには泣きギレしたら面白い」という骨子をもらって、一つ目の質問にあったような抱一と後藤さんの関係性をどう描くとか細かいところ絡ませてつくりました。
パートナーが編集担当?みたいになってくれています。あと、あっくんのイタズラな仕草や表情は愛猫からインスピレーションを受ける事が多々あります。
――作画の際にこだわっていることや、特に意識していることはありますか。
キャラクターの表情や仕草にはやはり特有のものを当てはめたいと思っています。特に気を付けている点で言えば、後藤さんが椅子に座っているシーンなどでは股をガバッと広げて座らないようにしています。
とか言いつつ、2話で股を開いて座っているシーンをうっかり描いてしまったんですが、後藤さんには電車などで股を閉じて座っていて欲しいので、そういうところを気を付けています。そういう細かいところにキャラの人間性は出ると思っているので。
――今後の展望や目標をお教えください。
イラストレーターとして若い女性や若い男性を描いてきたので、プライベートワークとして今度は私自身がおじさんになってくる中で、後藤さんのようなおじさんのキャラで魅力的な展開を描いていけたらいいなと思っています。
歳をとる事に今、私自身が困惑を感じているのですが、私自身が自己肯定できるような物語を描きたいですね。同時に今までの社会から求められがちだった「朗らかで世話好きなおばさん像」ではないおばさんキャラも造形していきたいと思ってます。
ケア役ではない女性像ですね。人生において若い時期は一瞬で、おじさんおばさんの時間の方が長いわけですが、その部分をどう生きていくか、どう描いていくか、というのは最近よく考えますし、確実に課題になってくると思います。
――作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします!
商業作品でもないし、自身の課題にポツポツと答えをひねり出すような地味な創作ですが、見ていただいている皆様、本当にありがとうございます。今後も何卒よろしくお願い申し上げます。