【テレビの開拓者たち / 野島伸司】「後世まで語られるような質の高い作品を残していきたい」
夫婦愛の限界に挑もうとする人間の姿を描きたい
──今回の「雨が降ると君は優しい」では、不特定多数の男性と関係を持たずにいられないという性嗜好障害に苦しむ妻・彩(佐々木希)と、彼女を理解しようとする気持ちと嫉妬心の間で苦悩する夫・信夫(玉山鉄二)の“究極の夫婦愛”が描かれます。この性嗜好障害=セックス依存症という題材も、夫婦にとっての「枷」ということですか?
「そうですね、夫婦の愛を描く上で、妻がセックス依存症であるという状況は、最も強固で最も難易度の高い枷になるんじゃないかと。不倫ドラマにありがちな、夫婦のどちらかが別の異性に恋をして…といったこととは真逆の、純粋なメンタルの葛藤を描いてみたかったんです。妻の不貞行為は心の病が原因なんだと頭では分かっていても、嫌悪感を拭い去れない夫が、それをどのように受け入れて、どうやって前に進んでいくのか。セクシャルな意味でも、心の病をテーマにしているという意味でも、おそらく地上波ではなかなか放送しづらい内容でしょうし、正直お蔵入りになっちゃうかなと思っていたので、今回、Huluという発表の場があってよかったなと思います」
──では、この作品で野島さんが描きたい「人間の本質」は?
「いわゆる“無償の愛”というのは、子供に対して持つことはあっても、恋人や夫婦の間で感じることって限りなく少ないと思うんですよ。でも、男女の関係においても、お互いに相手に対して、男性が父性本能を、女性が母性本能を感じた場合、明らかに恋とは違う、無償の愛に近い感情が生まれることもあるんじゃないかと。この作品の夫も、セックス依存症の妻と向き合ったとき、恋愛感情だけしか持っていなかったら、とても堪えられないんだけど、そこを父性的な感情で乗り越えようとするんです。その限界に挑もうとする人間の姿を描きたい…という感じですかね。もしかしたら最後は、“そんな立派な男はこの世にはいない”という領域まで行っちゃうのかもしれませんけど(笑)、そんな男もいてほしいという僕の願望も含めて、キャラクターを掘り下げていけたらなと思っています」
──その「立派な男」は、ご自身の理想像でもあるんですか?
「僕はこれまでけっこう恋愛ものを書いてきましたけど、書くことで昇華されちゃうところがあって、素の自分は、あんまり恋愛に感応しないんですよ(笑)。別にかっこつけて言ってるんじゃなく、僕は心底、浮気をする人の気持ちが分からないし、街中でいちゃついてるカップルを見ると、すごく客観的な視線になってしまう。たぶん僕は、もともとセクシャルなものに対する嫌悪感が強いんでしょうね。だから、性に貪欲な人というのはちょっと苦手で。脚本を書くときも、女好きみたいなキャラクターをコメディーリリーフに配置することはあっても、決して主旋律には置けないんです」