アニメ「チ。-地球の運動について―」(毎週土曜深夜11:45-0:10 ※初回は1話&2話連続放送、NHK総合/Netflix・ABEMAで配信)が10月5日より放送を開始した。本作は魚豊による同名漫画を原作としたアニメ作品。地動説の可能性を信じ、証明することに自らの信念と命を懸けた者たちの物語が描かれていく。重厚なストーリーとあまりにもあっけなく命が刈り取られる胸痛いシーンの連続に、視聴者からは「泣いた」「感情が揺れまくる」という反響の声が相次いだ。(以降、ネタバレが含まれます)
神が作った真理に背く異端の研究――地動説
初回は第1話「『地動説』、とでも呼ぼうか」と、第2話「今から、地球を動かす」を連続放送。開始早々、静寂感のある作画、生爪を剥がす異端審問官の拷問シーンというゾッとした展開によって、本作が内包する重いドラマ性が示される。
本作はフィクションではあるが、時代背景は実際の史実を下敷きにしたものだ。15世紀(西暦1401年~)のこの時代、ヨーロッパでは聖書の教えこそが絶対の真理とされ、その教えに背く行為や理(ことわり)をくつがえすような研究をする者は異端者とされ、見つかれば重罪が待っていた。
主人公ラファウ(CV.坂本真綾)が学ぶ天文学も、危うい学問の1つである。現代でこそ地球は自転しながら太陽の周りを公転しているということが科学的に証明されているが、15世紀ではそうではない。神が作った宇宙の中心にあるのが、人が住む地球。空の星々や太陽は、地球を中心にして動いているという天動説が教会の唱える唯一の真理だった。
ラファウの天文見識も天動説に沿うものであったが、ある日、父の知人であるフベルト(CV.速水奨)という男性と出会ってから、教会が説く真理に揺らぎを覚えはじめる。改心したとウソをついて、解放を得た異端者のフベルト。彼の研究も天文学であったが、唱える説は天動説を否定する異端の学説。地球は自転と公転をしながら太陽の周りを回っていると語り、フベルトはこれを「地動説」と呼んだ。
「ゾッとする」しかし「美しい」「ワクワクする」…初回放送であふれた視聴者の声
現代に生きる我々にはすでに知り得ている事実ではあるが、当時の常識と、それを異として真理に近づいていく様子を見るのは探究心にも似た興味深さを感じ得ない。異世界ジャンルが全盛な折、ある程度の前情報を持っていても新鮮な期待で視聴に向かえた本作だったが、第1話だけでも非常に引き込まれる作品であることが理解できた。しかし、第2話でその感情は別の方向へと動いた。
異端審問官の内偵によって、神の教えに背く地動説に踏み込んだことが露見したラファウだったが、フベルトが身代わりになることで処罰は免れる。代わりに2度目の摘発となったフベルトは処刑された。この作品は、人の死が残酷な形で淡々と描かれる。この第2話までの演出なのか、これ以降もなのかは原作を読破していない筆者には知る由はないが、印象としてそう感じさせるものがある。
第1話で住民が見物する中での火刑のシーンがあったように、時代的に異端者の処刑が身近なものとして行われていた背景はある。それにしてもアニメ的な作劇補正が介入せず、史実の教科書を淡々と見せていくような描き方に悪寒を覚えた視聴者は少なからずいたのではないだろうか。事実、放送後のSNSには次のような感想も多く見受けられた。
「第1話、第2話をどうにかリアルタイム視聴してもう泣いてました もしかして毎回泣く?」
「本当の異端審問官……ファンタジーアニメでの異端審問官とは違ってリアルにゾッとするほど恐ろしい」
「面白い!面白いけど初っ端からキツイ、キツすぎる、精神が病む」
「異端者は人ではないのだろうな 火炙りにされる人を見る住民たちの傍観ぶりが怖い」
一方でそれ以上に多かったのが、このような感想だ。
「原作未読ですが地動説の証明という題材で興味をそそられました。異端弾圧などで痛々しいシーンはあるものの探求に命をかける様にワクワクしています」
「知的好奇心と真実への探究心から行動する人間の情熱をここまで描けるのかと衝撃を受けた。歴史の授業で数行で終わってたことを掘り下げ、当時の宗教の在り方と興味を持って知る事の楽しさを登場人物の生き方で表現している。地球上の美しさとは何かを知る事ができる作品」
「歴史に名を残すことのない人間たちの命の輝きを描く物語」
「紡がれる信念。人の知的好奇心は誰にも止められない。怖さはあれど“美しい”とさえ言えるドラマでした」
神学が頂点にあった時代。教会が説く定説を覆す真理の追究、学問は命懸けの戦いであったはず。そこに生きた先人たちの信念、名もなき偉人たちの姿を見ることが、きっと本作を見ていく意味なのだろう。フベルトが遺した意思を継いだラファウの行く末、科学の発展していない時代で彼らはどのようにして地動説を証明したのか。第3話以降も興味が尽きない作品である。
◆文=鈴木康道