「文庫Xの歌」を歌う「歌手X」の正体が橋爪ももと判明
ベストセラー「文庫X」から生まれた「文庫Xの歌」を歌う女性アーティストが明らかになった。9月16日、IBCまつりに登場、正体を公表し、10月にメジャーデビューが決定したことも発表された。
岩手県盛岡市・さわや書店フェザン店が、2016年にスタートさせた企画「文庫X」。その中身「殺人犯はそこにいる」(清水潔著)は、現在に至るまで30万部を超えるベストセラーとなっている。
「文庫Xの歌」は、「文庫X」に感銘を受けた女性が作った歌。そのCDが発売されたのは2017年5月。全国で1店舗のみで販売されたCDは300枚以上売れ、名前を伏せたままのアーティスト「歌手X」の正体に注目が集まっていた。
その「歌手X」が、盛岡市で行われた「IBCまつり」にてライブを行い、来場者を前に正体を明らかにした。
東北地方に巨大台風が接近していた9月16日、「IBCまつり」野外特設会場にまず登壇したのは、さわや書店フェザン店の田口店長と長江貴士氏の2人と、前日、「歌手X」本人がゲスト出演したIBCラジオ「松原友希のアフタースクールらじお」のパーソナリティーを務める松原友希アナウンサー。3人が、「文庫X」そして「歌手X」の経緯を説明した。
3人と入れ替わるようにして登場した「歌手X」に、会場はざわめいた。「文庫Xの歌」は、力強いボーカルと突き刺さるような歌詞で圧倒する歌だが、現れた「歌手X」は黒の衣裳に身を包んだ可愛らしい女性だった。「文庫Xの歌」のCDで、あるいはラジオを通じて歌を聴いていた人には、予想もつかないような出で立ちだっただろう。
観客の戸惑いをよそに、「歌手X」はまだその名を明かさないまま、「文庫Xの歌」の1曲目「願い」を歌い始める。今度は、「文庫Xの歌」の存在を知らないまま客席に座っていた観客が度肝を抜かれた。見た目からは想像もつかない力強い歌声と、鋭利な世界観を作り上げる歌詞が、会場一帯を圧倒。アコースティックギターとサポートにキーボードのみのシンプルな編成にも関わらず、「歌手X」は自身の存在を知らぬ者たちの前で堂々としたパフォーマンスを披露した。
「願い」を歌い上げた彼女は、会場を包み込んだ雰囲気を打ち壊すかのようにして、今度は軽妙なトークを繰り広げる。歌声とは打って変わって可愛らしい声で展開される自身のエピソードは自虐的で、こちらもルックスとのギャップが激しい。
そうして、自分が「歌手X」であること、そして「橋爪もも」であることを明かした彼女は、中島みゆきの「時代」を歌い、「文庫X」や「歌手X」のことを知らぬ者たちにも、その存在感を見せつけた。
オリジナル曲「今は猫」を披露した後、彼女の口からメジャーデビューが決定したことを発表した。彼女は「歌手X」の仮面を脱ぎ捨て、「橋爪もも」としての姿を現したばかり。彼女のパフォーマンスに魅せられた観客たちは、彼女のメジャーデビューを大いに祝福した。
ライブの締めくくりに、「文庫Xの歌」の2曲目「私の涙で咲いた花」を歌い上げた。ほとんどの人が「橋爪もも」を知らない土地で、しかもライブで披露したことのない歌を歌うことに大きなプレッシャーを感じていた、という彼女だったが、ライブ終了後、彼女のサインと握手を求めて並ぶ大勢の人の列を目にして安堵した様子。「歌手X」としての最初で最後のステージは、大成功に終わった。
この日を境に、さわや書店フェザン店で販売していた「文庫Xの歌」のCDは販売終了。「願い」、そして「私の涙で咲いた花」は10月発売のCDに収録される。発売を予定しているCDメーカーによれば、さらにカップリング曲として新曲を1曲追加する予定だという。急にメジャーリリースを発表したこともあり、発売日は正確に確定していない。発売は10月後半で調整中、今週後半から来週前半の間までには正式発表したいとのこと。
力強いボーカルと、深い世界観を持つ楽曲だけでなく、可愛らしいルックスからは想像も出来ないトークとパフォーマンス、そしてすべて手作りという衣装も「橋爪もも」の魅力だ。
●さわや書店フェザン店 長江貴士氏コメント
橋爪ももさんと初めてお会いしてから5ヶ月。「歌手X」として名前を伏せてもらわなければならなかった彼女には、大変な苦労を掛けてしまいました。しかし、僕らが彼女の名前を伏せて曲を届けようと思った理由を、橋爪ももさんのライブを直接目にした方には理解してもらえると思っています。「見た目」と「パフォーマンス」のギャップは、まさに「文庫X」に通ずるものがある、と感じました。「見た目」で「これは私が聴く曲じゃない」と思われてしまっては、この素晴らしい曲が多くの人の手に届かない…。そういう思いから、歌手名を伏せて彼女の歌を届けようとしたのです。
IBCまつりの当日、僕はMCの一人として橋爪ももさんと同じステージに上がる機会がありました。計3度登壇しましたが、ステージに上がる度に観客の視線や雰囲気が大きく変わっているのを感じました。最初は「何者?」という視線だったのが、彼女の歌声を聴くことで、「なんだか分からないけど凄い歌を聴いている」という雰囲気に変わっていきました。橋爪ももさんが当店に最初に送ってくれたCDを聴いた時から凄い歌だと感じていましたが、僕自身も初めて「文庫Xの歌」をライブで聴いて打たれた一人なので、その観客の変化はとてもよく理解できます。彼女の存在と歌声が、少しずつでも多くの人に知ってもらえるようになれば嬉しいです。
■「文庫X」について
2016年に出版・書店業界を飛び越えて話題となった、一書店の企画。その本は、2016年7月21日に、盛岡駅ビルにあるさわや書店フェザン店の店頭に並んだ。とある文庫本の表紙をオリジナルのカバーで覆い、タイトルも著者名も見えない状態で販売。買う前に分かるのは、「税込810円であること」「500ページ以上であること」「小説ではないこと」の3つだけ。この謎の本は、さわや書店フェザン店の店頭に並ぶやいなやすぐに売れ始め、やがて全国650以上の書店に波及、タイトルを明かした現在も売れ続け、30万部を超えるベストセラーとなっている。
「文庫X」の内容は「殺人犯はそこにいる」という、北関東で実際に起こったとある“未解決事件”を取材したノンフィクション作品。5件の内1件で逮捕されていた人物の無罪を証明し、また真犯人まで指摘する本書は、「調査報道のバイブル」と呼ばれる程の一冊。その事件の周囲には、今も癒えない様々な感情が残り続けている。その本を読んだ彼女が、自分の内側に生じた衝動を昇華するために曲を作った。さわや書店に届いたのは、そんな歌だった。「文庫X」という企画をスタートさせたさわや書店の皆さんに是非聴いて欲しい―歌い手としてそう願っただけの彼女の行動が、ここまで繋がった。
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ブログ 橋爪もも『生乾き日記』
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