戸成なつ「推さないでくれませんか?」ストーリー
極限社畜の海老原みち(33)は、今にも死んでしまいそうな精神状態だった。そんなみちの前に、“推し”という神が現れる…。
みちが勤める人材派遣会社に、みちの推しであるお笑い芸人・星野優也(36)がやって来た。星野は物ぐさな性格のせいで先輩芸人から家を追い出され、半ばホームレス状態で仕事を探していた。みちは星野にもう一度お笑いでひと花咲かせてほしいと仕事探しを止めさせ、みちの家で養うと提案する。ここに“推したい女”と“逃げ出せない男”が生まれたのだった。
死にそうだったみちは、星野の世話(=推し活)によって元気を取り戻していく。だが、星野は三食付き、ゲーム、ネットし放題の生活に堕落してネタが書けない。「こんなんじゃダメだ」と、星野はせめてアルバイトをして家にお金を入れようとするが、求人誌もデリバリー用のリュックも捨てられてしまう。
みちは星野にお笑い芸人でいてもらわないと推し活ができない、推し活をしないと精神を保っていられないと、星野を縛っていた…。そしてついに、みちは星野の代わりにネタを考えるまでに。すると、そのネタがお笑いライブで大喝采。テレビ番組にも誘われるようになった。それがきっかけで星野はお笑いで自立してしまう。
お笑いでの自立に、何も言えないみち。そのとき、推し活ではなく、星野自身に依存していたことに気づく。しかし、案の定、他人が考えたネタでの活躍は長くは続かず、星野はすぐに挫折。ついに芸人引退を決意する。
みちはここぞとばかり、星野にまた家に来てほしいと提案するが、「僕はあなたの娯楽じゃない」と拒否される。そのとき、みちは星野の“辞める勇気”を感じた。実は、みちは中卒で学歴詐称して入社したため、怖くて会社を辞められなかったのだ。しかし、星野の姿を見て、自分もやっと辞める勇気を持つことができた。
そして、やっと無職になった女と夢を諦めた男は新たに出会い直し、一方的な推し活ではなくお互いを支えあう存在へと進みたいと願うのであった。