北村一輝が主演を務めるミニドラマ「おっちゃんキッチン」が民放公式テレビ配信サービス・TVerとTVer公式SNSで配信中だ。11月22日に配信開始となった最終話では、満を辞して学(北村)の23歳の娘・さくら(柳美稀)が登場。不器用な親子が自分たちらしい方法で本当の気持ちを伝え合う姿に心が温まるエピソードとなった。
「おっちゃんキッチン」とは
TVerとKDDIによるコンテンツ共同制作プロジェクトが始動。
その第一弾作品となる本作は、北村演じる“おっちゃん”店主が営むこぢんまりとした食堂を舞台にした配信ミニドラマ。“おっちゃん”の決め台詞「おまち丼(どん)さま」を合言葉に提供される、心を満たす丼グルメと共に、自身の悩みの解決につながる糸口をその丼から得る若者の姿や、若者たちとの手探りなコミュニケーションを通じて自身の“アップデート”を目指す店主の姿が描かれる。
横型動画をTVerで、縦型動画をTVer公式SNS(TikTok、YouTubeShorts、LINEVOOM、X)で、それぞれ視点の異なるストーリーとして展開される。
柳美稀が学の娘・さくら役で登場!
9月に配信が始まったミニドラマ「おっちゃんキッチン」。本作では、こぢんまりとした居酒屋の無口な店主・学(北村)が、若い女性客たちが抱える人間関係の悩みに言葉ではなく料理で応えてきた。
これまでに連絡無精な恋人に不満を持つキャバ嬢、過干渉な母親にうんざりしている見習いデザイナー、児童の親と教育方針をめぐってぶつかる保育士など、性格も抱える悩みも多種多様な女性客が訪れてきたが、最終話で満を辞して登場したのは学がずっとメッセージアプリでやりとりしていた23歳の娘・さくらだ。
演じるのはファッションモデルとしてキャリアをスタートさせ、スーパー戦隊シリーズ第40作「動物戦隊ジュウオウジャー」(テレビ朝日系)にてヒロインのセラ/ジュウオウシャーク役で地上波ドラマ初出演を果たした柳美稀。今年7月期のドラマ「GO HOME〜警視庁身元不明人相談室〜」(日本テレビ系)では警視庁科捜研の優秀な研究員を好演し、注目された。
そんな柳は今回、北村と初共演。ほぼ無口な学に対して、これまで抱えてきたさくらの複雑な心境を吐露させる。
学がさくらに厳しくなった理由とは?
「会いに行くから住所を教えてほしい」という学からのメッセージには「無理」と辛辣な返事をしていたが、自らお店にやってきたさくら。少し気まずそうにしながらも、「元気だった?」と問いかけ、頷く学に「お父さんは嘘ついてる時と、無理してる時、小鼻が膨らむ」と笑顔でからかう。パティシエとして頑張っていることを報告するなど、どうやら学のことが心から嫌いなわけではないようだ。
そんなさくらが学を避けるようになったのは、亡き母親が病気になってから。お通しの和風マカロニサラダと梅酒で父親の懐かしい味に浸ったあと、さくらはずっと言えなかった学への愚痴を打ち明ける。
母親が入院中、お見舞いにも来ずお店に立ち続けていたこともそうだが、それまでは優しかった学が急に自分にだけ厳しくなったことがさくらは嫌だったという。その思いを無言で受け止めた学は、さくらに妻が亡くなる前に自分に宛てた手紙を見せる。そこには2つのお願い事が書かれていた。
一つはお見舞いはいいから、娘たちのお手本としてちゃんとお店に出て欲しいということ。そしてもう一つは、娘に優しくするだけじゃなく、これからは自分に代わって、特にこれから社会人になるさくらに対しては厳しく見守ってほしいということだ。学は急に意味もなくさくらに厳しくなったわけではなく、そこには妻との約束を果たそうとする父親としての愛情があった。そう思うと切ないが、学が言葉足らずだから誤解を生んだとも言える。
自分たちらしい方法で気持ちを伝え合う親子の姿
これまで女性客たちとのやりとりを通して、特にさくらとの関係におけるコミュニケーションのアップデートを図ってきた学だが、いざさくらと対面すると何も言えなくなってしまう。だけど、自分の気持ちを伝える方法は言葉だけじゃない。学が頭を悩ませながらさくらに送ってきたメッセージにも、女性客の言葉をヒントに作ってきた料理にも、彼なりの愛情や想いがちゃんと込められていた。
「おまち丼さま」という決めセリフも、妻が大好きだったダジャレだったということが明かされる。学は無口で不器用だけど、本当は誰よりも人情に溢れているのだ。そんな学がさくらの語る思い出をヒントに作ったのは「ゆかりの親子丼」。親子丼にゆかりのふりかけをかけただけの今までで一番シンプルな料理だが、両親の愛情が込められた味をさくらは涙を堪えながらしっかりと噛み締める。
そして学もずっとさくらに言えなかったことをメッセージアプリで伝える。それは、好きな人ができて付き合っていたが、さくらに悪いと思って別れたこと。「父さんカッコ悪いな?」という学のメッセージに、さくらは「うん、カッコ悪い」「でも、大好きだよ」と返信する。目の前にいるのにスマホでやりとりする二人は側から見るとちょっと変だが、これがこの親子に合ったコミュニケーション方法なのかもしれない。
これまでセリフがほぼない中、表情だけで巧みに学の気持ちを表現してきた北村。そんな北村の真骨頂が最終回では発揮され、娘の言葉に一喜一憂する学の愛情深い父親としての顔に胸が温まった。クレジットでは、「おかえり」と「ただいま」を伝え合った学とさくらがお店でケーキをつくる映像が流れる。
全12話のドラマを通して、世代や価値観の違う相手とも自ら歩み寄ることの大切さを教えてくれた本作。もちろん、人間関係には衝突がつきものですれ違うこともあるが、学とさくらのように互いに信じ合っていたら何度でもやり直せる。基本的にはゆったりとした気持ちで観られる異色のドラマだったが、料理のちょっとした工夫やコミュニケーション方法など、学びの多い作品だった。
■文/苫とり子