アニメ「チ。-地球の運動について-」(毎週土曜深夜11:45-0:10、NHK総合/Netflix・ABEMAで配信)の第10話「知」が11月30日に放送された。本作は魚豊による同名漫画を原作としたアニメ作品。地動説の可能性を信じ、証明することに自らの信念と命を懸けた者たちの物語が描かれていく。バデーニ(CV.中村悠一)一色に染まったと言っていい今話は、彼の挙動不審な行動や文字を残すことへの重みを説く発言が話題になった。(以降、ネタバレが含まれます)
挙動不審すぎるバデーニの「オヴェー」からの「よし!よし!よし!」
前話、満ちる金星が確認されたことで地動説の正しさは一段と真実味を帯びた。ピャスト伯から惑星観測記録を得たことでバデーニは研究を一気に進めるかと思われたが、まだ解決できない問題は残っていた。石箱に従うと齟齬が生じ、惑星軌道が真円にならないのだ。しかし、発想ではなく、ピャスト伯の記録が間違っているのだとしたら…。そんな考えがよぎったとき、ふとバデーニの目に入ったのが、オクジー(CV.小西克幸)が持っていたネックレスだ。
それを見て何かを閃いたのか、真円ではなく、楕円で計算を始めるバデーニ。普段からある意味愉快な人なのだが、ここからのバデーニはいつも以上に愉快な人だった。唐突に嘔吐しに行ったかと思えば、「よし! よし! よし! よし! よし!」と拳が裂けるのも意に返さず、壁を正拳突きし始める。地動説の研究資料に触れたときもそうだったが、何やら真理を見たようだ。
普段の言動が利己的すぎて薄情なバデーニだが、悪人ではないだけに憎めない人物でもある。「ホントおもしれー男だよねバデーニさん。身近にいたら多分距離取るけど」「中村悠一さんの『よし!』がバデーニを一層愉快にさせてて草」「バデーニさんの歓喜の儀式笑う、天才と変人は紙一重なり」といった視聴者の反応が表す通り、思わずツッコミせずにはいられないシーンであった。
現代ネット社会に痛烈なアンチテーゼとなったバデーニの発言
今話の内容でもう1つSNSでコメントが集中したのが、「文字の読み書き」と「文字を残す行為」についてだ。冒頭、ヨレンタから読み書きを教えてもらったと話すオクジーに、「君のような身分の者に…」「大半の人間が読み書きでないのはいいことなんだよ」とバデーニは呆れたように諭しはじめる。
前話、オクジーに「文字は奇跡」とその素晴らしさを教えてくれたヨレンタと違い、バデーニの物言いは選民思想のかたまりだった。あっけにとられるオクジーに、バデーニは続けて「文字を残すというのは重い行為だ。一定の資質と最低限の教養を要求される。誰もが簡単に文字を扱えたら、ゴミのような情報で溢れかえってしまう。そんな世の中、目も当てられん」と嘆く。
このバデーニの発言はあくまでも当時の状況、彼の考えでオクジーに向けたものだが、一部の視聴者は現代のネット社会への痛烈なアンチテーゼとしても受け取ったようだ。SNSで誰もが自由に発信できる現代の状況をかえりみて、「バデーニさんの発言が胸に突き刺さる。誰もが文字を使えたらゴミのような情報で溢れかえってしまう。気をつけよ。勉強しよ」「バデーニさんの意見ももっともなんだよな…軽々しく発した言葉で人を傷つけたり、操ったりすらできるんだから」「発言、発信できることの重みをしっかり考えるべきだよね、だからネットは便所の落書きと言われる」といったコメントが多数寄せられた瞬間だった。
しかし、「本を書こうと思う」というオクジーにさらに呆れるバデーニだったが、そのあと非常に気になるシーンが描写される。歓喜の儀式を終えたバデーニは納屋に置いてあったオクジーの書きかけの本を手に取り目を通しはじめるが、なぜかその翌日、オクジーがパンを分け与えている貧民層の人間を訪ねると「ここ」を貸してほしいと頭を指す。いったいオクジーは何を書き、それを読んだバデーニはなぜこのような行動を起こしたのか。謎のあるシーンであった。
そして、エピソードの終盤ではついにバデーニが地動説の完成を宣言する。楕円にたどりついたバデーニだが、はたして彼の論説は宇宙の真理に到達しているのだろうか。また、教会では新人の異端審問官の教育がはじまり、あのノヴァク(CV.津田健次郎)が実習の担当者として現れる。
「はぁ…もう嫌な予感しかしない終わり方じゃないですか…」「ここに来てのノヴァクの再登場が不気味すぎる」「地動説の発表、たやすくできるとは思えないけどバデーニさんはどうするつもりなんだろう」など、この先を不安視する声が続出する不穏な幕引きとなった。
◆文=鈴木康道