海堂尊、メディアミックスに思うことは「医の心だけは守ってください」ということだけ
スケザネ:もう一つ海堂さんにお聞きしたいのが、今回は1971年に出された小説を、2023年に小泉監督が映画化したのですが、いま風の言葉でいうとメディアミックスですよね。海堂さんもこれまで『チーム・バチスタの栄光』や『ブラックペアン』など、数々の作品が実写化されてきていますよね。そんな海堂さんから見たメディアミックスの魅力や、メディアミックスすることで意識していることはありますか?
海堂:一言でいうならば、楽しいです。お祭りみたいなところがあるんですよね。たまに私の作品のファンが「これは原作と違うじゃないか」と怒ったりすることがあるのですが、私自身はあまりそういうことは気にしていないんです。と言うのも、小説はテキストが基本単位ですが、映像化作品は、俳優さんが基本単位なんです。テキストを俳優に変えた時点で同じものができることはない。そのなかで私が映像化する際にお願いしているのが「医の心だけは守ってください」ということなんです。医者は基本的に患者さんが元気で幸せになることを願っているので、そこだけは踏み外さないでほしいということです。もちろん殺人を犯す警察官もいますし、イレギュラーはありますが、私の作品を映像化する際には、そうお願いしていますが、これまでそこを踏み外そうとした作品はなかったです。
スケザネ:例えは『チーム・バチスタの栄光』は、原作だと田口と白鳥は両方とも男性だったのですが、映画では田口の役が竹内結子さんになっていますよね。結構大きな改変だなと感じるのですが。
海堂:あの作品は初めての映像化作品だったので、「そんなものなのか」と思った記憶があります。だけど振り返れば竹内結子さんとお会いできたのは良かったなと思います。
コロナ禍でも医療はブレずに!
スケザネ:海堂さんは、ずっと医療小説を手掛けられてきましたが、コロナ禍を経て医者というものへの考え方や、医療小説に向き合う姿勢などは変化してきたのですか?
海堂:正直、コロナ禍を経たことで、何か変わったということはありません。医療の基本は、昔から変わらないので、先ほど実写化する際に話をしたような「医の心」という部分がブレることはなかったですね。どちらかというと、医療以外の世の中が変わってきたんじゃないですかね。特に政治などは大きくブレてしまったところは否めないですね。
スケザネ:確かに『雪の花 ―ともに在りて―』でも、オランダ医学の導入が遅れたのは、政治的な妨害みたいな描写もありましたね。
海堂:江戸時代末期の話ですが、医学や医療というものが、独立した存在でなかったということが大きかったんでしょうね。幕府の庇護のもとにいる医者が多かったので、なかなか難しいところもあったんだと思います。さらに当時は病気に対する対応も非常にプリミティブで、衛生状態も悪かったので、人がすぐに亡くなってしまった。だからこそ、感染症対策を間違えたから人が亡くなったということが目立たなかったんでしょうね。
スケザネ:なるほど、人々にとって病気がコントロールできるという認識がなかったんですね。その意味で、笠原良策さんや緒方洪庵さん、佐藤泰然さんの奮闘というのが生き生きと描かれているんですね。
改めてこうして海堂さんのお話を聞いていると、笠原良策さんのやったことのすごさが分かりますし、その意思が今の時代にすごくリンクしていることも映画を通して気づかされました。患者を助けたいという思いは、いつの時代もどの医者も共通したものだなということを実感できました。楽しいお話をありがとうございます。
海堂:そう思っていただけたなら、話した甲斐があったなと思います。こちらこそとても楽しかったです。
スケザネ:対談動画も配信されるということなので、詳しくはそちらでもご覧ください。