民放公式テレビ配信サービス・TVer(ティーバー)にて「俳優ドラマ特集」が開催中。2025年冬ドラマに出演する俳優の過去出演作品30本が無料配信されている。今回は鈴木伸之、松坂桃李、松山ケンイチの出演作品をピックアップし、各人の俳優としての魅力を深掘りする。
鈴木伸之が演じてきたダメなのに憎めない男たちの魅力
1月14日(火)よる10時よりスタートとなる「まどか26歳、研修医やってます!」(TBS系)は、芳根京子演じる研修医のまどかが働き方改革で変わりゆく令和の医療現場に戸惑いながらも、ベテラン医師たちの試練に立ち向かい、同期の仲間たちと励まし合って成長していく物語だ。本作で、まどかの指導医・菅野を演じるのは、2019年放送の『G線上のあなたと私』以来、約6年ぶりにTBS火曜ドラマに出演する鈴木伸之。菅野はストイックかつクールな性格で、研修医たちにとって憧れの存在という。
これまで鈴木は“ダメ男”を演じることが多かった。2017年放送の「あなたのことはそれほど」(TBS系)では、妻がいながら中学の同級生である主人公・美都(波瑠)とW不倫の関係となる有島を演じた鈴木。ドロドロのストーリーにもかかわらず、終始印象深かったのは有島の爽やかさだ。やっていることは最低なのに、有島からは全く罪悪感というものが感じられず、美都に対しても屈託のない笑顔を向ける。まさに美都が感じている「頭ではダメだとわかっているのに抗えない魅力」を鈴木が体現していた。
2023年に出演した「忍者に結婚は難しい」(フジテレビ系)は、ライバル忍者の末裔である二人が、お互いの正体を知らずに結婚。離婚の危機に直面するなか、それぞれに特殊任務が舞い込む、というラブコメディだ。本作で鈴木が演じた蛍(菜々緒)の夫で、伊賀忍者の末裔である悟郎は浮気こそしないものの、洋式トイレで立ったまま用を足す、出したものは出しっぱなし…など、だらしないところが多々あり、当初は女性視聴者たちから反感を買っていた。しかし、最終的には愛されるキャラクターとなったのは鈴木の力に他ならない。
185cmと高身長でガタイが良く、屈強な第一印象を抱くが、笑顔が爽やかで親しみやすい。そんな鈴木の人柄が役にも反映されており、ダメなところはあるけど、一生懸命で憎めないキャラクターとして成立していた。今回の役は“デキる男”とのことでまた新たな顔が見えそうだが、「患者には親切で、実は方向音痴というお茶目な一面もあるキャラクター」だそう。そのギャップにハートを射抜かれる視聴者が続出しそうだ。
松坂桃李の七変化ぶりを楽しめるドラマもずらり
TBSの“日曜劇場”で1月19日(日)よる9時から放送となるのは、この枠で初めて松坂桃李が主演を務める「御上先生」。松坂の主演映画「新聞記者」(高石明彦、藤井道人との共作)で、第43回日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞した詩森ろばによる完全オリジナル作品で、文科省のエリート官僚が高3の担任教師となって日本教育に蔓延る腐った権力に立ち向かう一風変わった学園ドラマになりそうだ。
松坂といえば、役ごとにガラリとイメージを変える変幻自在の演技力で日本のエンタメ界を牽引する存在。2018年には『孤狼の血』で、2019年には『新聞記者』で2年連続日本アカデミー賞・最優秀主演男優賞を獲得、2022年には『流浪の月』でTAMA映画賞・最優秀男優賞を受賞するなど、映画での活躍が目覚ましい松坂だが、ドラマでも強いインパクトを残してきた。
2015年に特別ドラマとして放送され、2017年に連続ドラマ化された『視覚探偵 日暮旅人』(日本テレビ系)では五感のうち、聴覚・嗅覚・味覚・触覚を失い、残された視覚を頼りに探偵をする日暮旅人を演じた松坂。感覚が研ぎ澄まされた彼の目には、人の匂いや感情など目に見えないはずのものが“視える”。そんな現実離れした設定をも松坂はものにし、設定にリアリティを持たせていた。多部未華子や濱田岳、上田竜也らが演じる周囲のキャラクターのやりとりなど、クスッと笑えるシーンもあるが、基本的にはシリアスなストーリーで旅人は暗い過去を背負っている。
松坂はこういう影のある役が似合うけれど、その一方でちょっと情けない役もとことんハマる。なかでも個人的にお気に入りなのが、2021年に「あのときキスしておけば」(テレビ朝日系)で松坂が演じた桃地だ。同作はスーパーで働く桃地が、憧れの漫画家である巴(麻生久美子)と恋に陥るも、飛行機事故で巴が亡くなり、その魂がさえない中年のおじさん・マサオ(井浦新)に乗り移ってしまうという衝撃のラブコメディー。松坂桃李史上“最ポンコツキャラ”と呼ばれた桃地は、何をしても鈍臭く気弱で常にオドオドしている。だけど、一生懸命で誰よりも優しい。そんな桃地に扮する松坂のコミカルながら温かみのある演技に笑って泣ける作品だ。他にも「TAKE FIVE~俺たちは愛を盗めるか~」(TBS系)や「ブラッシュアップライフ」(日本テレビ系)などが無料で配信されているので、ぜひこの機会に松坂の七変化ぶりを楽しんでほしい。
松山ケンイチの“熱演”が光る代表作
1月24日(金)よる10時から放送開始となる金曜ドラマ「クジャクのダンス、誰が見た?」(TBS系)は、浅見理都の同名漫画を原作に、クリスマスイブの夜に元警察官の父親を殺された大学生の娘・心麦(広瀬すず)が、遺された手紙を手がかりに真相に迫るヒューマンクライムサスペンス。本作で心麦とともに事件の真相を追う弁護士・松風を演じるのは、松山ケンイチだ。
松山といえば、今年上半期放送の連続テレビ小説「虎に翼」(NHK総合)ではヒロインの寅子(伊藤沙莉)に影響を与える裁判官の桂場を演じた。同じく法曹の役、なおかつ「理屈っぽく余計なひと言が多いくせ者だが、見て見ぬ振りができない世話焼きな一面もある」という桂場とも少し重なるキャラクターに朝ドラファンは心を躍らせているのではないだろうか。
そこに立っているだけで目が惹きつけられるような、唯一無二の存在感で数多くの作品に出演してきた松山。筆者が初めて認識したのは、今回無料配信されている2009年放送の「銭ゲバ」(日本テレビ系)だ。同作は2020年に惜しまれつつ亡くなった秋山ジョージの同名漫画が原作。貧困の中で生まれ育ち、金のためなら手段を選ばない大人に成長した主人公の風太郎を松山が演じた。風太郎は派遣労働者として工場で働く「三國造船」の社長家族に取り入り、会社を乗っろうとする。そんな風太郎に扮する松山はダークな雰囲気を携えており、とにかく不気味。だけども、時折ピュアな一面が見え隠れし、心から彼を憎むことができないのだ。
全話を通して魂を揺さぶる演技を見せてくれているが、特に圧巻なのは最終話での泣きの芝居だ。鼻水や涎が垂れるのも厭わず、泣き叫ぶ松山に「熱演」とは何かを教えられたような気がする。
2023年放送の「100万回 言えばよかった」(TBS系)の松山は、風太郎を演じていた時とはまるで別人。同作は、数奇な運命に翻弄されながらも奇跡を起こそうとする3人のファンタジーラブストーリーだ。幼馴染だったが、大人になってから偶然再会し、恋人同士となった悠依(井上真央)と直木(佐藤健)。しかし、直木は不可解な事件に巻き込まれ突然悠依の前から姿を消してしまう。松山が演じたのは、現世を彷徨う幽霊となった直木の姿が唯一見えて、会話もできる刑事の魚住。本人は真面目なんだけれど、その反応が妙に可愛らしく、本作屈指の癒しキャラとなっていた。どちらの作品も松山の魅力を余すことなく堪能できる傑作だ。
■文・構成=苫とり子