【テレビの開拓者たち / 鈴木おさむ】地上波もネットも、面白いものを表現する場という意味では同じなんです
ヒット番組の条件は“今までありそうでなかったもの”
――では、ご自身のターニングポイントになったお仕事は?
「『Qさま!!』ですかね。『スマスマ』をやらせてもらって、ようやく経験値が付いてきたころに、チーフ作家として参加させてもらった番組なので、すごく責任感を持って取り組んでいた記憶があるんです。『Qさま!!』は、元々は、芸人さんが体を張って潜水とか高飛び込みに挑戦する、という番組で。その後、ゴールデン帯の放送になって、内容をリニューアルしようということになって、解答者が輪になって考える“お勉強クイズ”の形(「プレッシャーSTUDY」)を作ったんですけど、あのときのリニューアルは特に、自分の中では大きなターニングポイントになったと思います。
それと、『ココリコミラクルタイプ』も思い入れは強いですね。視聴者の体験談をコントで再現するという番組だったんですけど、当時はボロクソ言われたんですよ。『コントなのか、再現VTRなのか、はっきりしろよ』みたいな。実際、難しい部分もあったんですけど、だんだん形になっていって、今では再現コントって、バラエティーのひとつの定番になっているじゃないですか。僕は常々、“今までありそうでなかったもの”がヒットすると思ってるんですけど、その僕の持論が『ミラクルタイプ』で立証されたというか(笑)」」
――「今までありそうでなかったもの」というのは、おさむさんが新しい番組の企画を考えるときの軸になっているんですね。
「そこだけにこだわっているわけではないけど、結果的に考えると、それもひとつあるのかなと。“ありそうでなかった”企画って何と言うか、すごく“飛距離”が出るんですよね。その意味では、『お願い!ランキング』(2009~2017年テレビ朝日系)も、“ありそうでなかった”の典型的なパターンで。あの番組は、テレビ朝日の深夜帯を改革しようということで始まったんですが、予算の問題もあって、タレントなしで成立する企画を考えてくれと言われたんです。しかも月~金曜の毎日1時間。そこで、食品メーカーのある一社の商品をランク付けするという企画を思い付いて。僕は当時、『家電批評』という雑誌が好きでよく読んでたんですけど、ああいうふうに家電を並べて点数を付けて評価するということを、なぜテレビでやらないのかなって、ずっと不思議だったんですよ。雑誌だけじゃなく、Amazonでもいいんですけど、商品に点数を付けるという当たり前に行われていることが、テレビだとなぜできないかというと、結局、スポンサーへの配慮なんですよね。でもそんな事情は、テレビを見ている人には全く関係のないこと。当時の『お願い!ランキング』は幸い、理解のあるスポンサーが付いてくれていたようで、“今までありそうでなかった”企画が実現できたわけです」
――そして、「お願い!ランキング」のスタイルもまた、バラエティー番組の定番となっていったわけですね。
「そうですね。あと、あの番組は、アニメのキャラを使ったのも面白かった。あの豚のキャラの声、実は僕がやってたんですよ(笑)。VTRチェックも含めて、自分が声を当てるのが一番早かったんです。僕はそれまでいろんなタレントさんとお仕事してきましたけど、その流れとは真逆の、タレントを一人も使わない番組に携われたことも、自分の中では大きかったですね」
――さらに、おさむさんはバラエティーだけでなく、ドラマの脚本も手掛けられています。今年の1月クールに放送された不倫ドラマ「奪い愛、冬」もSNSなどで大きな話題となりました。
「連ドラの脚本は、何年かに一度のペースで書かせてもらってるんですけど、いつも自分の身の丈に合うテーマの作品を書きたいと思っています。『生まれる。』(2011年TBS系)の“高年齢出産”というテーマは、当時、うちの妻の赤ちゃんが残念なことになって、新しい命が生まれるということはすごいことなんだと改めて思ったときに浮かんできたテーマで。『奪い愛、冬』は、育休中にオファーが来たんですけど、『ドロドロの不倫のドラマをお願いします』と聞いて、大爆笑したんですよ。『育休中の男が不倫ものを書くの!?』って。でも、元々そういう世界は好きなんで、振り切って書きました。その分、今までで一番楽しんで書けた脚本かもしれないですね」