ダンス界において、ダンサーなら誰でもその名前を知っているカリスマカンタロー。さまざまなダンスエンターテイメントを生み出してきた株式会社アノマリーの代表取締役であり、自身もプロデューサーとして"DANCE ALIVE HERO'S(旧 DANCE@LIVE)"などの大型ダンスイベントやBeat Buddy Boiなどのアーティストプロデュースも行なっている。そんなダンス界に置いて重要人物となるカリスマカンタローに、現在のダンスシーンについてインタビュー! 現在のダンスシーンとダンサーに今後必要になるモノを語ってもらった。
イベントをやる人には何を目的にやるのかを考えてほしい
——まず現在のダンスシーンについて聞かせてください。昔に比べてダンスが世間一般に広まり、ダンサーの知名度や地位も上がってきました。その流れもあってここ数年でダンスイベントの増大とダンサーの個人事業化が活性化していますが、どう思いますか?
「ダンスカルチャーに精通した方が、起業したりイベントやプロジェクトを立ち上げるのはすごくいい事です。一方でダンスカルチャーに詳しくなかったけど、企業のパワーを使って、経済としてダンスに関わるのもありだと思います。逆に趣味でイベントやスタジオを起こす人もいれば、ダンスカルチャーを知らずダンス人気にあやかろうとして始める人もいる。全部含めてダンスに関わろうとする人がたくさん増えました。ただ、ダンスカルチャーラブって表向きには言ってるのに中身がそうじゃない人もいれば、ラブすぎて斜めの方向に行っちゃう人もいるので(笑)、僕はすごくバランスが悪いと思ってます。イベントをやる人には何を目的にやるのかを考えてほしいですね」
——具体的にどういう事ですか?
「多分、根本的には生活のためにやってると思うんですよ。自分たちのできる範囲で収支計算してイベントをやっているようでは業界は成長しないと思います。本当にダンス界を面白くしたいなら、資本を稼いで、それを投下して、赤字でもいいから「自分はこれがやりたいんだ!」「これがかっこいいんだ!」という思いを持った人が集まって、周りの企業を巻き込んでいくようなパワーがないとダメだと思います。その対極で「絶対カルチャー中心でしょ!」「 儲けとかそんなんじゃないよ!」と言う人たちがいるからこそ、お互いが切磋琢磨していくことでシーンって良くなっていくと思うので、そういう考え方になっていかないとダンス業界は伸び悩むと思います」
——たしかに、点が増えていますけど、線になっていない感じはしますね。
「目の前の事だけじゃなくて、3年後、5年後、10年後にそのシーンでどのポジションを築いて、何を成し遂げるのか。死ぬまでに何を残すのかというのが見えないですね。そう考えると昔に比べてイベントは増えましたけど、ワクワクするようなイベントは減っていると思います」
——他にダンスシーンでこうなって行くだろうという注目している動きはありますか?
「Twiggz FamとかKING OF SWAGのような、チームというよりクルーが、これからそれぞれの派閥を作っていくと思います。僕はそれが正しいと思っていて、例えばあのファッション、あのカラー、あの踊り系はスワッグ系だよねってなって、そこの頂点にKING OF SWAGがいて、そこから派生も生まれてきて、スワッグ一派ができたり。Twiggz FamのKRUMPファミリーだったり。BE BOP CREW がまた新たな時代を作るかもしれないし、それを具体化していって「どこに入ろうかな?」「いや俺は新しいシマを立ち上げる!」みたいになっていいと思います。日本の政党と一緒ですね」
何をするにしても大義がないと人はついてこない
——ストリートと少し離れますが、カリスマカンタローさんはA-POP(アニソンダンス)のバトルイベント「あきばっか~の」のジャッジをしていたじゃないですか。 SNSでA-POPの熱量を絶賛していましたが、ストリートダンスのシーンと比べてどう思いますか?
「A-POPのイベントは、10数年前のダンス界だなって思いました。みんなが好きで集まってるから熱量もすごかったです。A-POPに心動かされた方々がどんどん巻き込まれて、みんなが衝撃を受けるというのは、僕が10数年前に「JAPAN DANCE DELIGHT Vol.12」のZepp Tokyoで食らった感覚と同じなんです。DELIGHTが盛り上がってきた時期で、あのZeppに観客が入りきれずに、満員電車状態。みんなが熱量をあげて見ている状況でワンステップ踏んだ時のお客さんの圧。あの時の圧をこないだの「あきばっか~の」で食らいました。「なんじゃこりゃ」と。DJタイム含めて、ずっと終始盛り上がってて、これはやばいなって。このイベントは本気出せば両国国技館行けると思うし、オーガナイザーの涼宮あつきにも「まさかあつきがライバルになると思わなかった(笑)。このシーンがこんなに大きくなるなんてすごい」って言いました」
——シーンが盛り上がっている時の熱量は凄まじいですよね。僕はDANCE@LIVE(現:DANCE ALIVE HERO’S/以下 アライブ)を取材させて頂いて、アライブからダンス界のヒーローを作りたいという熱量を毎回感じます。
「アライブが10年赤字だったこともみんな知らないんですよ。想像を絶するような赤字を出して毎年両国国技館やってる奴だと思ってないわけです。昨年からやっと黒字が出て、今年は前年を上回る黒字を出しましたけど、社員の工数とか考えたらマイナスですよね。でも、ダンス界のヒーローを作りたい。ダンスで仲間ができる場所を作りたいといった大義があったので、10年間赤字が続いてもやり続けました。やはり何をするにしても大義がないと人はついてこないですよね。大義がないままイベントや事業をやっても周りが疲弊していきますから、辛くなっていくだけだと思います」
——確かに夢のあるエンターテイメントを作るのは重要ですよね。一方で食べていくことを考えるとバランスが難しいと思います。
「もったいないなと思いますね。これだけダンス人口がいるのに、コンテンストにバトルにと、どこも同じようなイベントばかり。目の前の出口はあっても、その先のゴールを作ってないから、今の子たちは疲弊するだけになってしまいます。そこはなんとかしてあげたいです」
ダンサーは影響力勝負になってくる
——ダンサーの出口ということで、少し時事的な話題をしたいのですが、安室奈美恵さんが引退を発表しました。僕はこのニュースを聞いた時、安室奈美恵というダンサーにとって夢の職場がひとつなくなってしまうと思ったのですが、アーティストとダンサーの関係値で思うことはありますか?
「僕も当時はMISIAがHIPHOPやHOUSEなんかもやっていたので、バックダンサーになりたいと思ってました。時代も変わって、安室奈美恵さん、浜崎あゆみさん、倖田來未さん、三浦大知くんとかいろいろなアーティストのバックダンサーが増えて、それぞれ活躍しているし、パフォーマーとして、ダンサーがアーティストになるLDHアーティストも確立しています。今はSNSがあるからファンもついてブランド化されてきているで、その流れはいいなと思っています。それ以外にも、Dee(KING OF SWAG)やRIEHATAが、クリス・ブラウンの曲で踊ったのをSNSでアップして、本人に気に入られて、結果的に一緒に踊ったりするという事もありました。これも今の時代っぽい動きだと思うので、アーティストとダンサーの関係値というのは昔と比べても、すごいフランクに、業界を飛び越えて繋がっていける時代になったと思います」
——ダンサーをリスペクトしてくれるアーティストが増えたと思うのですが、それはダンサーの実力やブランドが向上してきて地位が上がってきたからというのもあるのでしょうか?
「それもありますけど、僕はアーティスト側が自分のダンサーをフックアップしてくれてると思います。こんなに実力あって、自分のことをサポートしてくれているのに、なんでこんなに苦しんでいるのか、もっと有名にしてあげたいなって思ってくれてるんだと思いますよ。なので、ダンサーだけの時間を作ってくれたり、ダンサー紹介をしたりとかしてくれて。あれはアーティスト側の優しさですね」
——カリスマカンタローさんのツイッターを見た時に「アーティストがダンサーにコラボを依頼する時代がくる」と書いていましたが、実際にそういう流れを感じる出来事はありましたか?
「こないだの登美丘高校ダンス部のバブリーダンスもそうですけど、結局インフルエンサー的なものにダンサーがなるのであれば、アーティストに限らず企業も含めて、必ずその影響力を使いたい人たちは増えてくると思います。自分の好きなダンサーにかっこいい振り付けを作って欲しいアーティストはもっと出てくるでしょうし、カラーが合わなかったらダンサーから断る時代も来ると思います。全て需要と供給のバランスなので、ダンサーは影響力勝負になってくるでしょうね」
——確かに企業がダンサーに仕事を依頼したいとき、調べて有名そうな人から声かけていきますよね。
「ダンサーはダンスが商品だと思っている人が多いですが、影響力も自分の商品なんです。そのダンスによって影響を受けたパワーが可視化されて給料になるんですよ。ダンスはファン商売ということを理解した方がいいです。例えば世界的なダンサーになるという目標を立てても、どこの世界をターゲットにしていて、どういう人たちをファンにするのかというのを明確にしないといけないです。僕が何度も言ってることなのですが、ファンを意識せずにダンスを踊っている人は踊り好きになるんじゃないんですかね。踊りが好きで、踊りのコアな部分を追求する人たちなんです。プロダンサーはダンスでお金をもらうことを意識して仕事しなきゃいけないし、ファンも影響力もつけなくちゃいけないと思います。ここの境界線も曖昧なのではっきりさせていきたいですよね。このことを最初に子供達に理解させないと子供達がどこを目指していいかわからない。うまくなるのはいいことですが、うまいとかっこいいの価値観は人それぞれなので、僕はやっぱり、ダンスがカッコいい、上手いだけでなく、フォロワー数、ファンを多く持っている人が、そのぶん収益が上がっていくダンス界にしたいなと思います」
(撮影●外山繁 取材・文●のざたつ)
カリスマカンタロー●日本の実業家兼ダンサー。ダンスイベントビジネスを中心にストリートカルチャー全般にまでビジネスを展開中。2004年6月にアノマリー(現・株式会社アノマリー)を設立。ダンスシーンにおいて彼の存在を知らない人はいないほどの重要人物。主催/プロデュースを手掛ける『DANCE ALIVEシリーズ(DANCE ALIVE HERO'S/DANCE ALIVE WORLD CUP)』は毎年両国国技館で開催しており、世界最大級の動員数(1万2000人以上)を誇るモンスター級のダンスイベントである。
●DANCE ALIVE HERO’S
https://www.dancealive.tv/dancealive