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【連載】約1年の休載を経て復活!onodela「アナーキーアイドル」#9 大学卒業後、フランスの料理学校に行った話

2025/11/27 18:01

【写真】身を寄せた寮。寮とはいえ、とてもモダンな作りで気に入っていた。
【写真】身を寄せた寮。寮とはいえ、とてもモダンな作りで気に入っていた。本人撮影

年明けの1月。15時間のフライトでパリに到着し、さらに鉄道で4時間。駅での乗り換えではフランス語の案内が理解できず、右往左往しながら、ようやく目的地であるアグドにたどり着いた。ギリシャ人によって築かれたという、火山岩に囲まれた街であり、フランス最古の街のひとつでもある。

駅に着いたのはすでに深夜だった。エスカレーターがない構内で、30キロのキャリーバッグを引きずりながら階段を上り下りしていると、ずっと都会に住んでいた自分には、なかなかハードな生活になりそうだなとつい思ってしまった。

しかも翌日は、いよいよ料理学校の初日だったのに、1時間に1本しかないバスの時刻を読み違え、目の前で逃してしまうことに。バス停には見知らぬ誰かが一人だけ。思い切って声をかけてみると、なんと同じ学校の生徒だった。一緒にウーバーを呼び、なんとか授業開始に間に合うことができた。

学校は思ったよりも小さく、二階建ての建物がひとつ。その中に、レストランさながらのプロフェッショナルな広い厨房が二つ備えられている。クラスの男女比はほぼ半々。それに、わたしのような料理好きの素人は少なく、ほとんどがレストラン勤務経験者だった。それでも、1日目は基礎の卵料理から始まるので、気を引き締めて取り組むことができた。

午前中のクイジーンクラス(料理専門のクラス)で作った料理は、授業後に実食していいということで食べてみたところ、味はしっかり憧れていたフレンチのようだった。さらに、ベーキングクラス(デザート専門のクラス)の仲間が余ったスイーツを分けてくれて、初日からコース料理のように豪華な昼食になって、なんだか幸先のいいスタートを切れた気がした。

盛り付けが自由にできる日が一日だけあって、みんなそれぞれに個性を出して仕上げた。写真の手前が、自分の作った料理。
盛り付けが自由にできる日が一日だけあって、みんなそれぞれに個性を出して仕上げた。写真の手前が、自分の作った料理。本人撮影


田舎で不便なところが多いこの町だけれど、壮大な景色はどこにも引けを取らなかった。ある日の放課後、先輩の生徒に誘われて、街はずれの岬、キャプ・ダグドを訪れた。砂の小道を抜けた先に広がっていたのは、果てしなく青く、静かにうねる地中海。

冷たい風に吹かれながら、波が砂浜に打ち寄せ、白い飛沫を立てては引いていく。その音は心地よいリズムとなって耳に残り、どこまでも続く水平線と夕焼けのオレンジがとけ合う光景に、思わず息を呑んだ。

深く息を吸い込むと、肺の奥に塩と磯の香りがしみこんでいくようだった。

「この景色、絵葉書みたいでしょう?」

先輩が笑顔でそう言いかけると、わたしは思わず深く頷いていた。

先輩から聞いた話によると、アグドは観光業が主産業で、観光シーズンが終わる冬には町全体が静まり返り、ほとんどの店が閉まってしまうそうだ。

「だから、学校の隣にあるスーパーで食料を買い溜めしておかないと、リゾートに戻ったときにはたった一本のコーラさえ手に入らないこともあるよ」と教えてくれた。

そんな、どこか世間から隔絶されたような環境だったが、真冬の海辺を散歩することがすっかり好きになっていた。波の音だけが耳に届き、海風がそっと頬を撫でる。冷たい空気に包まれながらも、その瞬間だけは、これまで経験したことのないような静けさと安らぎを感じることができた。

週末の趣味は、鉄道乗り放題パスを使って、周辺地域を開拓することだった。

隣町のセットで開かれる朝市には、地元ならではの食材があふれ、その活気に圧倒された。掘りたてのトリュフが、まるで拳ほどの大きさでごろごろと並んでいる。有名なジラルドー牡蠣の産地でもあり、「緑の宝石」とも称されるこの牡蠣にずっと惹かれていたわたしは、ついに4キロ、40個ほど入った詰め合わせを手に入れた。無心で殻を開け、一つひとつ味わいながら、気づけば最後の一粒まで完食していた。

全く知識のない異国だからこそ、小さな旅にもトラブルはつきものだった。まるで毎回、ちょっとした冒険だ。ある日、ピンクの塩湖を目指して、片道6時間かかる強行日帰り旅に出たが、行きのバスを間違え、現地滞在時間はわずか2分。しかも塩湖は閉鎖中で、ゲートから見えた湖の色は普通の青色だった。帰りのバスは目の前で発車し、人生初のヒッチハイクに挑戦するも失敗。ようやく1時間後にウーバーが来て、なんとか帰りの電車に間に合った。不運続きの一日だったけれど、帰りの車窓から、ほんの小さな、けれどたしかにピンク色の池が見えた。それだけで、この旅に挑んだ価値があったと思った。

家に戻って、旅先で撮った写真をパリに戻った友人に送ると、「すごくきれいだね!行き帰り、大丈夫だった?」と、やさしいメッセージが返ってきた。同じ街にはいなくても、同じ国に友人がいるというだけで、ずいぶん心が強くなる。

現地の風景。いるだけで穏やかな気持ちになれる海。
現地の風景。いるだけで穏やかな気持ちになれる海。本人撮影


プログラムも中盤に差し掛かり、だんだん学校の環境が掴めてきた。

並行して受けていたフランス語の授業では無双し、フランス語の先生にたくさん褒めてもらった。テストもいつも最高点。第二、第三言語を習得してきた経験もあり、語学の学習のコツはすでに身についていた。

一方で、クイジーンクラスでは様子が違った。手先は全く器用ではなく、料理の基本である切り込みひとつ取っても、仕上がりはどこか雑で不揃いだった。加えて、プロの厨房は、教室のような「全員平等で意見を述べ合う」リベラルな空間ではなく、年功序列と実力主義の世界。ペア、チームリーダー、当直など役割分担が多く、集団行動が少し苦手な自分には難しい面もあった。創作料理なのに、ユニークさより基礎重視。イカ墨でお皿に文字を書くような実験的なことをしても、先生には白い目で見られるだけだった。結果、クイジーンクラスでは下位にとどまっていた。

下位だからか、少し意地悪な態度を取ってくるクラスメイトもいた。アメリカ人の女性で、なぜかわたしにだけ厳しかった。「切り方違うよ」と言われるのは理解できたが、「オーブンをじっと見ていないで」と指示されたときは、さすがに戸惑った。他のクラスメイトにはそんな態度を取らないのに、学校にアジア人がほとんどいない状況で差別的に見られるのは避けたかった。

昔、アイドル活動をしていた頃、嫌な気持ちをたくさん溜め込み、最後に爆発してしまった経験がある。その失敗から学んだのは、違和感を覚えたら、早めに礼儀をもって相手に伝えることだ。3日目、彼女がまた理不尽な指摘をしてきたとき、わたしは静かにこう返した。

「Can you mind your own business?(放っておいてくれませんか?)」

彼女は返す言葉を見つけられなかったのか、黙って立ち去った。それ以来、余計な干渉はなくなり、日々の授業に集中できるようになった。

下に続きます
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onodela(オノデラ):1999年、東京都生まれ。2019年6月、「小野寺ポプコ」としてアイドルグループに加入後、翌月にメンバーからのいじめをきっかけに、ステージで高らかに脱退宣言して引退。その後、2022年9月に早稲田大学、2024年5月にはカリフォルニア大学バークレー校HaaSビジネススクールを卒業。現在はNY在住。勉学に勤しみながらもDJ活動などインフルエンサーとして多方面で活躍中。

◉X(旧Twitter):https://x.com/_onodela
◉Instagram:https://www.instagram.com/_onodela

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  • 【写真】身を寄せた寮。寮とはいえ、とてもモダンな作りで気に入っていた。
  • 現地の風景。まるで物語の世界に迷い込んでしまうようだった。
  • 現地の風景。いるだけで穏やかな気持ちになれる海。
  • 盛り付けが自由にできる日が一日だけあって、みんなそれぞれに個性を出して仕上げた。写真の手前が、自分の作った料理。
  • どこもかしこも素晴らしい街で夢見心地で過ごしていた。
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