
日本中の人々を笑わせ、泣かせ、そして深く考えさせた俳優、西田敏行。彼の逝去から早くも一年が経とうとしている。その確かな存在感とどんな役柄にも自身の人間性を投影するかのような演技は、今も多くの人々の記憶に鮮明に残っている。一周忌という節目に彼が残した足跡を辿り、俳優としての真髄と“遺したもの”の意味を改めて考察する。
西田敏行という俳優の色
西田敏行は、1947年、福島県に生まれた。明治大学在学中から演劇に打ち込み、劇団から俳優としてのキャリアをスタート。彼の名が一躍全国区となったのは、1980年代にはじまった人気シリーズ「池中玄太80キロ」での主演だろう。人情味あふれる通信社のカメラマン・池中玄太を演じ、コミカルな一面と家族を思う真摯な姿でお茶の間の人気者となった。
同作は彼の代名詞の1つとなり、後の「釣りバカ日誌」シリーズへと繋がる西田の“人間味豊かなキャラクター”像を確立することになる。「釣りバカ日誌」シリーズといえば、言わずと知れた日本を代表する人情コメディー映画だ。
両シリーズに共通するのは、西田の人間味あふれる演技。登場人物のキャラクター設定としてではなく、西田の内側からにじみ出るような庶民性、朗らかさ、素直さ、無垢さが多くの人に愛された。
もちろん西田は北野武映画をはじめ、迫力あるヤクザ役などもこなす幅広い演技力を持ち合わせている。舞台出身ということもあって腹から響く声は本職もかくやという説得力があり、「釣りバカ日誌」とのギャップは天と地の差。それでも役のどこかで愛嬌がふと覗くあたりには、西田の隠し切れない内面が表れていると言える。
「人間」を体現した俳優
彼の演技の真価は、晩年に出演した作品群でさらに深く掘り下げられた。たとえば2015年の映画「マエストロ!」で、解散した名門オーケストラ再建のために現れた謎の指揮者・天道徹三郎を演じた西田。頑固で奇抜、他を顧みないような高圧的な言動と圧倒的な音楽への情熱を持った役柄だが、言動のせいで理解を得られないこともしばしば。
それでも松坂桃李演じる若き劇団員・香坂真一の理解と奔走もあって、諦めかけていた楽団員たちの理解を得て最高の音楽を奏でるに至る。しかし面白いのは、物語の終盤でも天道の頑固おやじっぷりは全く直らない。裏には大きな愛情があることを周囲が理解したことで、誤解を招きかねない言い方を受け入れてもらっている…そんな“許されている”立場だ。
西田はこうした「頑固おやじ」の役柄を演じることが多い。2013年の映画「あさひるばん」では、元高校野球部監督の坂元雷蔵という役柄を演じた。雷蔵はシングルマザーの道を選んだ娘を勘当した頑固おやじで、“病床にある雷蔵の娘・幸子と仲直りさせるために、かつての教え子たちが奔走する”というストーリーの根幹に関わるポジションでもある。
「釣りバカ日誌」シリーズの原作者・やまさき十三がメガホンを取った“精神的続編”とも言える同作だけあって、國村準演じる“あさ”が雷蔵と“釣り勝負”で幸子を許してもらおうとするひと幕も。勝負に応じるということからわかるとおり、雷蔵は幸子を許すきっかけを探している。「マエストロ!」と同じ頑固おやじでありながら、通り一遍の“頑固おやじ”とは違う西田の演技。役を役としてではなく“人生を歩んできた人間”として演じるからこその深みと言えるだろう。
https://www.eigeki.com/program/36942
■「あさひるばん」放送詳細ページ
https://www.eigeki.com/program/36934
■「終戦のエンペラー」放送詳細ページ
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