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映画「夜明けのすべて」はなぜ心に光を灯すのか 松村北斗&上白石萌音らの繊細でリアルな芝居が作り上げる世界観

2025/10/26 21:01

「夜明けのすべて」
「夜明けのすべて」(C)瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

The darkest hour is just before the dawn.(夜明け前が一番暗い)――映画「夜明けのすべて」は、生きづらさという真っ暗な夜と、まさに日が昇る瞬間のような柔らかい微かな光を感じる、そんな映画だ。特にドラマチックな展開があるわけでも、派手なぶつかり合いがあるわけでもない。ただ、呼吸がしづらいような内側に広がる痛みと、だけどそれを静かに優しく包み込むような温かさ。そんな物語が、地に足のついた現実の延長線上で紡がれていく。

PMSの藤沢さん×パニック障害の山添くんらの優しい支え合い


本作は、瀬尾まいこの同名小説を映画「きみの鳥はうたえる」(2018年)などの三宅唱監督が映画化した人間ドラマ。それぞれに生きづらさを抱えた男女が出会い、相手を少しずつ理解していく中で、互いに支え合える関係を築いていく姿を優しく繊細に描く。

PMS(月経前症候群)のせいで月に1度イライラを抑えられなくなる藤沢さん(上白石萌音)は、転職してきたばかりなのにやる気がなさそうに見える会社の同僚・山添くん(松村北斗)のある行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。だが、そんな彼もまた、パニック障害を抱え生きがいも気力も失っていた。優しい職場の人たちに支えられながら過ごしていくうちに、2人には恋人でも友達でもない同志のような特別な感情が芽生えはじめる。目に見えない痛みを名称(形)がない関係性で補い合う2人の変化を、登場人物たちとともに観察するような視点で追っていく。

そんな本作が、三宅監督の最新作である映画「旅と日々」の11月7日(金)の公開を記念して、10月、11月の2カ月にわたって日本映画専門チャンネルで放送される特集内で、10月27日(月)夜8:00よりオンエアされる。10月はそのほか映画「ケイコ 目を澄ませて」(2022年)などの三宅監督作品、11月にはテレビ初放送で未ソフト化の映画「すべて、至るところにある」(2024年)など三宅監督が「旅の(ような)映画」をテーマにセレクトした作品が登場。11月作品の本編前後には三宅監督がセレクトした作品と「旅と日々」について語る特別番組もあわせて放送される。

【写真】藤沢さん(上白石萌音)と山添くん(松村北斗)の距離が縮まるきっかけとなった散髪シーン
【写真】藤沢さん(上白石萌音)と山添くん(松村北斗)の距離が縮まるきっかけとなった散髪シーン(C)瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

自分らしさの不明瞭さと他人からの評価で生きる自分


「私は周りにどういう人間だと思われたいのだろうか」とあくまで他人の評価を気にする藤沢さんは、PMS以外のときは控えめで常に周囲に気を遣っている、そんな女性だ。だからこそ、PMSでイライラが爆発したときの彼女の破壊力は凄まじく、新入社員として入社した会社では2カ月で問題を起こしてしまう。その際に上司からは「なんか、藤沢さんらしくないね」と言われるのだが、一体“藤沢さんらしい”とは何なのだろうか。

一方で山添くんは、あまり人の感情を気にしない男性だ。だからこそ、同僚からの差し入れをはっきりと「いや、いりません」と断れるし、会社のドキュメンタリーを作りにきた先輩社員の息子を含む放送部の学生たちにもまともに挨拶すらしない。会社全体が協力ムードでも山添くんにとっては関係のないこととはっきりと線引きをする。だが、彼もまたプライドの高さがあるため、無意識のうちに他人と自分を比較して生きているように思える。

下に続きます
「11.7『旅と日々』公開記念 監督・三宅唱と映画の旅」オフィシャルサイト

「11.7『旅と日々』公開記念 監督・三宅唱と映画の旅」
▼10月放送作品
10月27日(月)・28日(火)夜8:00より日本映画専門チャンネルにて放送

「夜明けのすべて」(2024年)
監督=三宅唱
脚本=和田清人、三宅唱
原作=瀬尾まいこ
出演=松村北斗、上白石萌音、渋川清彦、芋生悠、藤間爽子、久保田磨希、足立智充、りょう、光石研

「ケイコ 目を澄ませて」(2022年)
監督=三宅唱
脚本=三宅唱、酒井雅秋
原案=小笠原恵子
出演=岸井ゆきの、三浦友和、三浦誠己、松浦慎一郎、佐藤緋美、中島ひろ子、仙道敦子

「密使と番人」(2017年)※未ソフト化
監督=三宅唱
脚本=三宅唱、松井宏
出演=森岡龍、渋川清彦、石橋静河、井之脇海、足立智充、柴田貴哉、嶋田久作

「Playback」(2012年)※未ソフト化
監督・脚本=三宅唱
出演=村上淳、渋川清彦、三浦誠己、河井青葉、山本浩司、渡辺真起子、菅田俊

▼11月放送作品
11月4日(火)・5日(水)夜9:30より日本映画専門チャンネルにて放送
※各作品の本編前後に、三宅唱監督がセレクトした作品と「旅と日々」について語る特別番組をあわせて放送。


「離婚」(1952年)※未ソフト化
監督=マキノ雅弘
脚本=小国英雄
出演=木暮実千代、田中春男、佐分利信、杉狂児、田崎潤、斎藤達雄、江川宇禮雄、英百合子

「こおろぎ」(2006年)
監督=青山真治
脚本=岩松了
脚色=青山真治
原案=畠中基博
出演=鈴木京香、山﨑努、安藤政信、伊藤歩、光石研、尾野真千子、小澤征悦

「街の灯」(1974年)
監督=森﨑東
脚本=森﨑東、梶浦政男
出演=堺正章、栗田ひろみ、笠智衆、森繁久彌、吉田日出子、財津一郎、フランキー堺、研ナオコ、三木のり平、田中邦衛

「すべて、至るところにある」(2024年)※テレビ初・未ソフト化
監督・脚本=リム・カーワイ
出演=アデラ・ソー、尚玄
夜明けのすべて (文春文庫 せ 8-5)
夜明けのすべて (文春文庫 せ 8-5)
瀬尾 まいこ (著)
文藝春秋
発売日: 2023/09/05
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