【テレビの開拓者たち / 郷田ほづみ】音響監督も務める人気声優が語る“日本アニメーションの未来”
名作と名高いアニメ「装甲騎兵ボトムズ」(1983年)の主人公、キリコ・キュービー役をはじめ、1980年代から声優として活動、また、俳優・タレント、舞台演出家としても知られる郷田ほづみ氏。2000年代以降、アニメ作品の音響監督も務めるようになった彼に、音響監督という仕事の楽しさ・難しさ、そして、現在手掛けている「伊藤潤二『コレクション』」(TOKYO MXほか)の制作裏話や作品の魅力を語ってもらった。
「アニメのことも分かっていて、演出もできるんだから、アニメのディレクターをやってみないか」と
──音響監督とは、アフレコ現場における声優の演技から、劇中に流れる音楽や効果音まで、作品の“音”の全てを演出するお仕事。郷田さんは、どのようなきっかけで音響監督として活動を始められることになったのでしょうか。
「僕はもともと声優の仕事からスタートしているんですが、その後、怪物ランド(※1983年に結成した、平光琢也、赤星昇一郎、郷田ほづみによるコントユニット)というグループで活動したりして、いったんアニメの仕事から離れた時期があったんですね。その後、怪物ランドの活動が一段落ついて、俳優として活動を始めて、30代になってからは舞台の演出もやるようになって。もちろん声優の仕事も再開していたんですが、そのころ、あるプロデューサーから『アニメのことも分かっていて、演出もできるんだから、アニメのディレクターをやってみないか』と声をかけてきてくれて。自分でもどうなるか分からなかったんですが、非常に興味はあったので、二つ返事でやらせていただくことになったんです」
──実際に始められて、いかがでしたか?
「舞台演出の場合は、例えば1カ月先の本番に向けて、リハーサルを重ねながら役者と一緒に作り上げていくものなので、リハーサルをやったその日に答えが出なくても構わないんですよ。でも、アニメのアフレコを演出する場合は、もちろんリハーサルはしますが、基本的に、リハ直後に本番の収録が始まりますから、それぞれの声優さんの一番いいところを出すためにはどんな芝居がベストなのか、こちらが瞬間的に判断して指示を出さなければいけない。音響監督というのは、何よりも“瞬発力”が求められる仕事なんです。ですから最初のころは、その辺りをすごく悩みながらやってましたね。でも一方で、『これは自分に向いているかもしれない』とも思ったんですよね」
──どの辺りが「向いている」と思われたんでしょうか。
「同じセリフでも、言い方一つで全然聞こえ方が違うし、そこで表れる感情も違ってくる。それまで、自分が演者として携わるときは、その辺りをどういうニュアンスで演じるのがいいのか探るのが楽しくてずっとやってきたんですが、音響監督という立場になると、いわば、それを自分の代わりに声優さんにやってもらうわけで、声優さんたちがその作業をしているところを俯瞰で見られるのも、非常に楽しいなと。こちらが味付けをすることで、セリフの聞こえ方や感情の違いが出せるので、そこを追求していくのが面白いんですよ。自分も声優をやっている分、演者のみなさんの気持ちがある程度分かるから、いろいろと遠慮なくディレクションできる、というメリットもあるかもしれませんね。もちろん声優さんたちにも、どんどん指示してほしいというタイプもいれば、あまり細かく演出をつけないほうがいいタイプの方もいるので、常々言い方には気を遣っているんですけれども」