【テレビの開拓者たち / 浜崎綾】賛否両論が巻き起こるくらい、見た人の価値観を揺さぶるものを作りたい
生放送の歌番組は、どこまでアーティストの本気を引き出すかが勝負
──浜崎さんがアーティストのライブを“映像”化する際、どんなところにこだわられているのでしょうか。
「子供のころに見ていた松任谷由実さんのライブ映像の“異次元”ぶりには届かないまでも、自分が撮るものもそうでありたいとは思っていて。音楽って、歌詞とメロディーで紡いでいく“物語”だと思うんですけど、そこに映像の物語性も乗せたい、というか。照明の当て方や、人物の配置。ピントの深さ、ズームインなのかアウトなのか、カメラワークをどうするか。私にとってはワンカットワンカットに、“そう撮るべき理由”があるので、そこにはこだわっていきたいと思っています」
──そうした収録番組の一方で、2012年から演出を担当されている「FNS歌謡祭」は生放送。撮り方も変わってくるのでは?
「生放送の歌番組は、どこまでアーティストの本気を引き出すかが勝負。『FNS歌謡祭』の場合は、私の前に演出を担当していた板谷(栄司)さんが始めた“円卓”のシステムが効果を上げていると思います。対面に置かれた2つのステージの間に円卓があって、そこに他のアーティストが座り、ステージを見ている。アーティスト同士が互いのパフォーマンスを見合うというのは他の番組ではあり得ない状況です。『あの人が見てる、負けたくない!』という意識が、他の番組にはない本気を引き出しているんだと思いますね」
──近年は、各局で“音楽フェス”的な長時間の音楽番組が増えていますが、その“円卓”が、他の番組との一番の違いですか?
「そうですね。ただ、後輩の島田(和正)がやっている『FNS歌謡祭 第2夜』では、ライブ感を重視しているため、客席を作って一般のお客さんを入れているんですが、アーティストごとにお客さんを入れ替えているんです。お目当てのアーティストのときは盛り上がるのに、それ以外の人が出てきたら今いち…というのはアーティスト側にとっては、やはり酷だと思うんですよ。入れ替え制というのは、時間も労力も掛かるんですが、アーティストの皆さんのベストなパフォーマンスを引き出すためには、労を惜しまずにやるべきことだと思っています」
──理想を言えば、お目当て以外のアーティストのステージでも盛り上がってくれるのが一番なんでしょうけどね。
「そうなんです。長時間の音楽番組をやるとき、よく視聴者の方から、事前にタイムテーブルを発表してほしいと言われるんですね。その気持ちは重々分かるんですが、私たちとしては、『お目当てはこの人だったけど、この人もいいな』という宝探しをしてほしい。だから、あえて発表していないんです」