草なぎ剛初主演ドラマ「いいひと。」が大きな自信につながった【テレビ東京プロデューサー / 稲田秀樹】
絶大な影響力を持つ「テレビ」というメディアで仕事していることに、誇りと責任感を持ち続けたい
──ちなみに、これまでのキャリアを振り返って、“プロデューサー・稲田秀樹”にとってターニングポイントとなった作品はありますか?
「僕は大学卒業後、しばらくは映画制作の会社に勤めていて。共同テレビに入ったころは、テレビのことが全く分からない状態だったんです。だから、テレビの作り方を少しずつ覚えてきたわけですけど、そんな中で、やはり思い出深いのは『いいひと。』ですね。草なぎくんの連ドラ初主演作品で、今では信じられない話ですけど、草なぎくんが俳優として世間でどのように評価されるのか、始まる前は全く予想がつかなかったんです。しかも、第1話の放送は、プロ野球中継の試合延長の影響で、ドラマが終わったのが0時過ぎでしたし、星さんの演出は個性的すぎるし(笑)。だから僕らスタッフは、“これは散々な視聴率だろうなぁ”と思ってたんですが、いざフタを開けてみたら、視聴率は24.6%。ビギナーズラックと言われればそれまでなんですが、僕にとっても草なぎくんにとっても、大きな自信につながったことは確かですね。
また、自分がクリエーターとして、いろいろな発想を出せるきっかけになったのが、映画の『電車男』(2005年)と、ドラマ『アンフェア』。このころは、『金田一耕助シリーズ』も手掛けていて、自分の中では、“映画はテレビっぽく、テレビは映画っぽく作る”ということを意識していたんですが、その考え方を具現化できるようになってきたのが、この時期でした。
あと、思い出深いのは、『ジョーカー 許されざる捜査官』(2010年)、『ギルティ 悪魔と契約した女』(2010年)、『リーガル・ハイ』(2012、2013年)かな。僕は“カタカナシリーズ”3部作と呼んでるんですけど(笑)」
──数え切れないほどたくさんの作品をプロデュースしてきた稲田さんですが、プロデューサーとして心掛けているモットーは?
「僕は、『稲田さんらしい作品ですね』と言われるのが苦手なんですよね(笑)。例えば、かつての共同テレビの仲間で、今、日本テレビにいる加藤正俊というプロデューサーは、画面を見たらすぐ『加藤Pのドラマだな』と分かるくらい、作品のテイストに一貫性がある。もちろん、そういうタイプのプロデューサーも素晴らしいし、それが本来の姿だと思うんですけれども、僕に限って言えば、なるべく一つの方向に偏りたくない、というのがあって。ジャンルも作風も、いろんなことをやっている方が、僕には合っているような気がするんですよ。モットーというほどではないんですが、作品ごとに全く異なるものを作って世間を驚かせたい。『次は何を繰り出してくるんだろう?』と思われたい。そこは常に意識していますね」
――では最後の質問です。巷では、「地上波のテレビが元気がなくなった」とささやかれる昨今ですが、稲田さんは、“テレビの未来”について、どのように考えてらっしゃいますか。
「確かに、一時期に比べるとテレビの影響力は衰えているのかもしれませんけど、マスへの影響力という意味では、まだまだ地上波のテレビに勝るメディアはないと思うんです。少なくとも僕は、そんな絶大な影響力を持つメディアで仕事をしているということに、誇りと責任感を持ちながら、今後も作品づくりに真摯に取り組んでいきたいと考えています」