「“殺人”と“不倫”は絶対に描きません」巨匠プロデューサー・石井ふく子が“ホームドラマ”にこだわり続ける理由
単発ドラマ時代の「日曜劇場」(1956~1993年TBS系)や、現在も年1回のペースでスペシャルドラマが制作されている「渡る世間は鬼ばかり」(1990年~TBS系)など、プロデュースを手掛けたテレビドラマは1000本超。その記録がギネスブックにも認定されている、言わずと知れた大御所プロデューサーの石井ふく子氏。そんな石井氏が、1972年に盟友・山田洋次の脚本で制作したドラマ「あにいもうと」が46年ぶりに、新たなキャストを迎えて蘇る。この作品に懸ける思い、そして「渡る世間は鬼ばかり」(1990年~TBS系)など、常に“ホームドラマ”にこだわり続けてきた真意などを語っていただいた。
自分の作った作品で涙を流したことなんてないんですけど、今回は泣きました
──前作の「あにいもうと」でご一緒された脚本家の山田洋次さんと、再び同じ作品をお作りになろうと思われたきっかけからお聞かせください。
「山田さんとは今回が20本目になるんですけど、最近はお忙しいみたいで、久しくご一緒する機会がなかったんですよ。最後が『くもりのちハーレー』(1988年TBS系)ですから30年ぶり。久しぶりにご連絡して、食事をしながらお話ししたんですが、その中で、私から『あにいもうと』を舞台を現代に持ってきてやりたいって言ったんですよ。家族同士でもほとんど会話もないような今だからこそ、家族がお互いに言いたい放題言い合ってケンカする話をもう1回やりたいって。
それと、最近は東京オリンピックの関係で工事が増えてますけど、私は建築会社にいたものですから、何だか見せかけの建物が多いなと思っていて(笑)。それで、『下町の大工さんの話にしたい』と言ったら、山田さんも『面白いね』なんて言ってくださったんです」
──前作で渥美清さんが演じられた役に大泉洋さんを起用されています。非常に面白いキャスティングですね。
「大泉さんも宮崎あおいさんも、それから瀧本美織さん、太賀さん、七五三掛龍也さんも、皆さん初めてご一緒する方ばかりなんですよ。せっかくなら、新しい役者さんたちとやってみたいと思って。
大泉さんはCMでお見かけして、ひらめきました。お会いしたときは、背が高くて、目尻がちょっと下がったところが魅力的だなというのが第一印象でしたけど、実際にお芝居されているところを見たら、ものすごくしっかりしてらっしゃるんですよね。宮崎さんはトラックの運転手の役で、運転するシーンで吹き替えを使うのは嫌だとおっしゃって、大型免許を取ってこられました。このお二人のケンカのシーンはすさまじいですよ。何せ兄妹ゲンカのシーンに殺陣師さんが付いてますから(笑)」
──前作との大きな違いはどんなところでしょうか。
「前回、倍賞千恵子さんが演じた妹は酒場で働く女性でしたから、ちょっと色っぽい感じなんですよ。今回の宮崎さんが扮する妹は、トラックの運転手なので、雰囲気はだいぶ違いますね。例えば、大泉さんが宮崎さんにお箸を投げつけるシーンがあるんですが、宮崎さんはそれを投げ返す。ちなみに、これは台本になかったんですけどね(笑)。
あとは、日本の建築を勉強しに来る外国人留学生という設定を入れたくて、シャーロット・ケイト・フォックスさんにお願いしたら、快く引き受けてくださいました。彼女が入ったことで、ドラマが俄然現代っぽくなったと思いますね」
──できあがった作品をご覧になった感想はいかがですか。
「初めに、まだ音楽が入る前の映像を見たんですよ。私は今まで、自分の作った作品で涙を流したことなんてないんですけど、今回は泣きましたね。このまま音楽を入れなくてもいいんじゃないかと思ったくらい(笑)。あと、改めて感じ入ったのは、山田さんの脚本は、登場人物を愛して書いてらっしゃるんだなということ。役者さんたちの感情もすごく伝わってきました」