映画からテレビの世界へ!
――しかし、雷蔵さんは37歳の若さで他界。やがて大映も倒産し、池広監督もテレビの世界に新たな活路を見出していきます。そんな中で出会ったのが、「終着駅シリーズ」でした。
1990年、当時新進気鋭だった佐藤凉一プロデューサーが見つけてきたのが、森村誠一さんの「終列車」という原作。さまざまなものを背負った人が新宿から終列車に乗って東京を逃れ、新たな人生を見つけていくというのがテーマで、あまり牛尾刑事が目立つ作品ではありませんでした。
次の「終着駅」は、逆に地方から都会に出てくる若い人たちを描いた作品で、「終着駅は新しい人生の始発駅でもある」というのがテーマ。森村さんいわく、新宿は“吹き溜まりの街”で、孤独も哀愁もあって犯罪も起きやすい。ふとしたことから犯罪に手を染めてしまった若者に、牛尾刑事が温情をもって接するんです。
当時は「太陽にほえろ!」が流行っていたけど、僕はもっとジト~ッと湿った刑事ドラマを作りたいと考えていたのですが、これがなんと23%ぐらいの高視聴率! “凉ちゃん”が「これを続けよう!」「以後、『終着駅シリーズ』と名づけよう」と言い出し、それが今も続いているわけです。
――5作目からは、片岡鶴太郎さんを主役に抜てきして再スタートしました。
4作目までは露口茂さんでしたが、さまざまな事情があって主演を交代することになり、そのとき自薦他薦含めて4人の候補が上がりました。僕はその中で、鶴太郎さんとやりたいと言ったんです。他の3人は当時有名なスターだったから、“鶴さん”だったら新しい味が出るんじゃないかと思ってね。
鶴さんは当時とても忙しくて、半年間は待たなくちゃいけなかったんだけど、会ってみたら非常にまじめな方でね。ただ、あの頃はボクシングをやっていたから目が鋭くて…。それを牛尾らしく穏かなまなざしに変えてもらうのと、鶴さんのお笑いの陰にあるペーソスみたいなものを引き出すのに最初は苦労しましたね。でも鶴さんはよくわかってくれて、本当に一生懸命やってくれました。
――そんな「終着駅シリーズ」に込めているのは、“若者”への優しいまなざしだと監督は語ります。
このシリーズは、将来のある若者に対する思いやりを込めて撮っています。新宿という街では、孤独な若者が挫折の果てに犯罪に走ってしまうこともある。排他的になりがちな都会の中で、牛尾は人の心に寄り添う刑事として存在します。
僕は、牛尾には大声出して怒鳴りつけたりなんて、一切させたことがない。彼の持っている温かいまなざし、そしてこの人になら話せると相手が思えるような安心感を大事にしている。そして最終的には、犯人を挙げた牛尾の哀愁を描くようにしています。
また、最新作の「ガラスの密室」では昨今、スマホばかり見て若者がうつむきがちになったことを踏まえ、前を向いて歩くことこそ未来を拓くことに繋がるのではないか、という思いを加えています。
6月24日(日)夜9:00-11:05
テレビ朝日系で放送
原作=森村誠一
脚本=坂上かつえ
監督=池広一夫
出演=片岡鶴太郎、黒谷友香、益岡徹、小木茂光、鳥居みゆき、金子昇、中田喜子、岡江久美子
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