ロックスターであり俳優としてもカリスマ的な存在感を放つ吉川晃司が、浅田次郎の幕末小説をドラマ化した「連続ドラマW 黒書院の六兵衛」に主演。江戸から明治へと時代が変わるその瞬間、江戸城に居座り続ける"ラストサムライ"六兵衛を演じた経験を聞いた。
<ドラマあらすじ>
慶応4年、西郷隆盛と勝海舟の会談によって江戸城の不戦開城が決定。官軍側についた尾張の下級藩士・加倉井隼人(上地雄輔)は、城の引き渡しのための先遣として城内に検分に入る。しかし、困ったことにただひとり、てこでも動かぬ旗本がいた。彼の名は的矢六兵衛(吉川晃司)。将軍直属の警護隊・御書院番だった。加倉井は彼になぜ居座るのかと問うが、六兵衛は黙してひと言も話さない。やがて、この六兵衛は本物ではなく六兵衛の名をかたる偽者だということが判明する。ますます混乱する加倉井ら。だが、しばらく時を過ごすうちに、古式ゆかしい貫禄でたたずむ六兵衛に対し、加倉井の胸裏には得体の知れぬ共感が湧いてくる。果たして六兵衛の居座りの理由とは。そして、天皇入城が迫る中、加倉井はどう手を打つのか。
徳川幕府が崩壊し、武士の世が終わる瞬間という時代背景をどう思われましたか?
「浅田次郎さんの原作小説を読ませていただいて、見事な設定だと思いました。昔、教科書で習った明治維新というのは、世の中を一新するすばらしい革命が起きたってことになっていたけれど、果たしてあれは本当に革命だったのか。僕のルーツは長州(山口県)だけど、客観的に見て、明治維新というのは関ヶ原で負けた薩長の敵討ちだと思っています。そんな瞬間に六兵衛という男が「武士道とは何か」ということを、もう一度振り返った。その哲学をここで捨てていくのかどうか。新しい時代には必要ないとしても、こういう物差しで生きてきた自分たちはなんだったのか、ここで一回振り返って示したのが六兵衛だと思います。彼がそれを無言で示すという設定を書いた浅田さんは素晴らしい。宗教家でさえ言葉を借りて思想を伝えるのに、六兵衛は何も言わないで伝えたわけですから。」
加倉井役の上地雄輔さんとの共演はどうでしたか?
「僕は体力を駆使し、彼は脳みそを駆使していました。加倉井役はとにかくセリフの量が膨大で、六兵衛が話さないからひとりでボケツッコミし、自分で問うて自分で答えるという芝居になる。上地くんはほとんど落語家さんの域に達していました。共通点としては、僕も彼も、10代の頃にスポーツをやりながら人格を形成してきたということがあって、やっぱり上地くんは『今日の撮影はきついだろうな』と思うときも、ちゃんと壁を飛び越えますからね。僕には手伝いようがなかったけれど、本番以外の時間に上地くんの長セリフをわざと一部分だけ変えて言って混乱させ、『やめてくださいよ!』と泣かせていました(笑)。というのも、僕も『下町ロケット』(2015年TBS系)に出演したときはびっくりするくらいの長ゼリフがあった。そのときに周囲でちょっとぶん回してくれる人が必要だと思ったので、今回は僕なりの応援の仕方としてそんな嫌がらせをしていました(笑)。」
文=小田慶子 撮影=外山繁 ヘアメイク=MAKOTO(juice) スタイリスト=黒田領