中井貴一が主演するBS時代劇「雲霧仁左衛門4」(毎週金曜夜8:00-8:45、NHK BSプレミアム)が、9月7日(金)にスタートする。
本作は「鬼平犯科帳」で知られる池波正太郎の時代小説を原作に、雲霧仁左衛門(中井貴一)率いる盗賊の雲霧一党と、一党を捕えようとする火付盗賊改方長官・安部式部(國村隼)の戦いを描くシリーズの第4弾。制作統括を務めるのは、これまでに大河ドラマ「篤姫」(2008年、NHK総合ほか)や連続テレビ小説「あさが来た」(2015〜16年、NHK総合ほか)など、数々の人気作品を世に送り出してきた佐野元彦氏だ。
そんな佐野氏に「雲霧仁左衛門4」の話をはじめ、時代劇というジャンルの魅力について聞いた。
念願かなって挑む“ピカレスク”もの
──「雲霧仁左衛門」の最新作がいよいよスタートしますね。
若いころ、ピカレスク(悪漢)もののドラマの企画を出して、上司から「NHKではちょっと…」なんて言われたことがあって。それから今まで、そういう発想は自分の中に封印していました。
だからこそ、大盗賊を主人公にしたドラマを作れるのはうれしかったですね。日ごろ使っていない頭を使えて、いろんなアイデアが出てくるのがものすごく新鮮でした。
──佐野さんがこのシリーズに携わるのは今回が初めてだそうですが、第3作までの制作統括の方から助言を受けたことはありますか。
ないです、ないです。以前にも「陽炎の辻」(2007〜2017年、NHK総合)という長く続いたシリーズの完結編だけ作ったことがあるんですが、そのときも前任者からは何も言われていませんし、逆に僕が制作した「吉原裏同心」(2014年、NHK総合)を別のプロデューサーが完結させたときも、何も引き継いでいないです。
同じ役を演じてこられた役者さんたちの座組がしっかりとあって、なおかつ揺るぎがたい世界観を持った原作があるので、いくら好き放題にやっても作品の根幹はブレようがないんですよ。そういう意味で、今回の「雲霧仁左衛門4」も自由に作れましたね。
──では、「雲霧仁左衛門」のブレない根幹は何でしょうか。
正義が勝つ一般的なドラマと違って、必ずしも正義とは言えない人が、その人なりの筋を通すというところですね。雲霧仁左衛門が“いい盗賊”になったり、世の中のために尽くす盗賊になるような物語にはしていません。池波正太郎先生の原作もそういう風に書かれていませんし、中井貴一さんもそこはしっかりと押さえて演じていらっしゃいます。
極めて今日的なテーマを時代劇で
──第3作以降は原作を離れたオリジナルストーリーになっていますが、今回の新たな見どころは何でしょうか。
前作までは中井さん演じる雲霧仁左衛門と國村隼さん演じる安部式部の、“追う側と追われる側”の物語を描いてきました。けれど今回は、そこに永山絢斗さん演じる天一坊という謎の男を登場させました。
「自分は吉宗の落胤で、次の将軍になる」と言っているこの人物は、本物なのか、偽物なのか。彼を担いでいる勢力があるんですが、目に見えて担いでいる役に佐野史郎さん、その背後にチラチラと見える役にイッセー尾形さん、さらにもうひとつ背後に…と、世の中で起きている事件にはいくつもの背景があるんだという、極めて今日的なテーマを時代劇の中で表現しています。それに雲霧と安部の話も絡んでいくという。
このエピソードは史実で、実際に幕府も民衆も大騒ぎになっていて、最後まではっきりした結論が出ないまま終わった話なんですよね。ちょうど雲霧たちがいた時代と重なっているので、取り入れてみました。
イッセーさんの芝居は面白いですよ。時代劇の作法は守りつつ、現代人っぽいシニカルな言葉の返し方をされています。時代劇をここまでフリーに演じる人は初めて見たなっていうくらいです。
──國村さんは完成披露試写会の際、「雲霧が捕まってしまったら話が終わってしまうので、永遠に『トムとジェリー』をやっている感じ」とおっしゃっていました。別の表現をすると、ルパン三世と銭形警部のような…。
まさにそうですね。近い将来、雲霧が1回捕まったかと思わせて、スルリと抜け出すみたいな話をやってもいいかも…と思います。いずれにせよ、中井さんと國村さんがいなかったらここまで続いていなかったわけですし、今後も長く続けていきたいシリーズですね。