ライブパフォーマンスとは違う輝きを見せるのがミュージカルの魅力
――今年6月に上演した「ファラオの墓~蛇王・スネフェル~」はそれから6年。特に成長を感じたメンバーはいましたか?
石田(亜佑美)でしょうか。芝居は元々上手でやる気もあったんですが、以前は音取りに苦手なところがあったんですよね。去年の「ファラオの墓」(前年に上演した視点違いの同演目)の時もそこは感じていたんですが、今年の「スネフェル」では見違えたと思いました。音を音として捉えるのを止めたのかなという感覚です。
ミュージカルの歌は台詞なので、歌として歌ってはいけないんです。それでいてピッチ、音を外してはいけないから、意識するほどに…だったのかもしれないです。芝居もものすごく良くなったので、意識の比重をそちら側に置いて、変に考えなくなったのかな、という印象です。
――ライブのためにレッスンしてきた歌い方がありますから、自然に出てしまっていたんでしょうか。
普段ポップスを歌っているから、どうしても歌い上げようとするんですよね。ビブラートを効かせたり、リズムを細かく取ったり。それはポップスでは大切なことなんですけど、ミュージカルは違います。歌でありつつ台詞なので、それをポップスのように歌い上げてはミュージカルとしての旋律が美しくなくなってしまうんです。
「リリウム」(「LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-」モーニング娘。鞘師里保&スマイレージ和田彩花主演・2014年)の時は、特にそこに注意を払いました。ライブで経験を積んできた分、ポップスが抜けなくなっていたんですよね。それこそハロプロはリズムに厳しいですし。「芝居に寄せて歌うんだよ」と。そうすると自然に聴こえるからって。
声質も、歌と台詞で極端に変えないようにということも。小田(さくら)のように歌が上手い子ほどそうなりがちで、歌のように聴かせようとして、役本来の声から変わってしまうことがあるんですよね。でも「スネフェル」ではそういうところはなくなり、とても高いレベルに成長していました。
――歌唱に秀でた子は、それはそれで別の課題があるわけですね。
ハロプロに限らず、普段のライブの歌唱にならないように、仮歌通りにストレートに歌うことを常に意識させます。私は仮歌をそのシーンにおける歌唱表現の1つの形で、その通りに歌えばまずは大丈夫、という風に作っています。でも、崩せる役は仮歌から崩してもいいんですよ。それが役の個性であれば。
けれどみんな真面目だし、日本人の気質的に自分から崩そうって考える子はなかなかいないんですよね。表現のプランがなければ仮歌をなぞればいいんですけど、そこをもっと「自分の歌にしてやるぞ」という気持ちできてほしいなとも思います。何人かはいて、そういう子の指導はこちらも楽しいですね。
――「スネフェル」では生田衣梨奈さんにソロ曲があり、良い声をしているという印象でした。
「アンケスエンの手紙」ですね。音もリズムも難しい曲だったので苦労していました。でも、1曲丸々もらえるというのは個人の貴重な見せ場ですから、ものすごい頑張りようでした。芝居も並行するシーンだったので、歌いながらどうすれば格好良い芝居になるのか、私も歌唱指導として彼女の頑張りに応えようと、2人で稽古のたびに話し合って詰めていきましたね。
生田は運動神経が良いじゃないですか。だから、「ダンス、殺陣の時はもっと心が動いているでしょう?」って。その心の動きを歌にも移すだけだからって。アイドルを指導する時は、その子の得意分野に置き換えて教えてあげるのが良い方法かなと思います。最終的に彼女なりに捉えた成果がしっかり形になって、良いシーンに仕上げられたと思います。
そもそもアイドルはステージで表現力を日々磨いているので、芝居力の高い子は多いんですよ。そこに普段とは違う歌が付くことでグンと伸びる子がいます。ミュージカルの良さはまさにそこですね。ポップスの時に輝いている子とはまた違った輝きを放つ子が出てくるという。この子はこんな風に歌えるのか、こんな表現力があったのかって。それがまた戻ってポップスに生かせたら一番良いんですけどね。特にハロプロの歌は台詞が入る曲も多いじゃないですか。そういう曲が来た時に絶対に生かせるはずです。
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