<山崎ナオコーラ映画連載>第2回『万引き家族』【ザテレビジョン シネマ部】
山崎ナオコーラの「映画マニアは、あきらめました!」
■山崎ナオコーラ:作家。1978年生まれ。2004年にデビュー。著書に、小説「趣味で腹いっぱい」、エッセイ「文豪お墓まいり記」など。目標は「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」。
第2回『万引き家族』
山崎ナオコーラが映画をテーマに等身大でつづるエッセイ。第2回は第71回カンヌ国際映画祭パルムドール、第42回日本アカデミー賞作品賞などを受賞、国内外で絶賛を博した是枝裕和監督の話題作『万引き家族』を観る。
『万引き家族』は構成が完璧
『万引き家族』は構成が完璧だ。
私は正直、前半では斜に構えていた。賞をたくさんもらっている作品ということは知っていたので、「評価されやすい要素があるのだろうな」と予想していた。そして、「また『血の繋がりよりも強い繋がりがある家族』の話なんでしょ?」というのも思っていた。
血の繋がりなんて大した繋がりではない、もっと強い絆は他にある、というのは、今や、多くの人が認識していることだ。「本当の親子」だの「血を分けた兄弟」だのといった言葉はもはや死語だ。繋がりは血で作るものではなく、日常で作るものだ。現代には、多様な家族がいて、独自の関係を築いている。これまでの是枝監督の作品でもそれは観たし、その他の監督の作品でもそういった関係性が描かれているのを観たし、小説や漫画でもそういった題材のものを読んできた。だから正直、「またか」という気持ちがちょっと湧いた。分かりきっていることだ、と思っていた。
ただ、観始めたとき、誰と誰がどういう擬似関係を描いているのか、よく分からないことに戸惑った。これが新鮮だった。家の中にたくさん人がいて、ごちゃごちゃしている。年齢がさまざまなので、シェアメイトというよりは、擬似家族を表現しているのだろうと予想はできる。でも、どういう擬似家族なのか分からない。
そもそも、私は映画マニアではないので、映画の文法をあまり知らない。キャラクターを読み込むのにいつも時間がかかる。読み取れないままになることもある。友人や家族と一緒に映画を観て、映画館を出たあと、「最初に伏線が張られていたでしょ?」と教えられて「え? そうなの?」と驚いたり、「誰々は誰々に片思いしていたよ。そういう視線を投げるシーンがあったでしょ?」と脇役の関係性を教えられて「そうだった? 気がつかなかった」と首を傾げることもある。だが、いつもそれなりに映画は楽しめているので、伏線や人間関係の完璧な理解なんて、映画鑑賞にとって重要なものではないのかもしれない。
ともかく、今回も「血の繋がりよりも強い繋がりがある家族」だろう、とは思いつつ、誰と誰が擬似親子で、誰と誰が擬似きょうだいなのか、よく分からないまま結構長い時間が過ぎた。そして、このぼんやりと観ていた時間が観終わったときに効いてきた気がする。
しばらくしてから、線が浮かんできた。治(リリー・フランキー)からの愛情を期待する祥太(城桧吏)の線。初枝(樹木希林)を慕う亜紀(松岡茉優)の線。
何よりも安藤サクラの演技が素晴らしく、安藤演じる信代が子どもたちと結ぼうとする線に心が温められた。日常が豊かだった。