家族思いな心が重なったお市と田中れいな
公演終了後に行ったお市役・田中れいなインタビュー。本番直後だっただけに、振り返りというより、役の心情をそのまま語ってくれた。
――1年前から始まって、3作目の「夢幻」を終えた今の心境はどのようなものですか?
明智光秀は殿(市の夫・浅井長政)をだまして殺した憎い相手で、兄上(織田信長)も明智に殺されると聞いて、すごく悪いヤツだと思っていたんです。でも、そんな明智が(最後のシーンで)「好きな武将は織田信長です」と言うのを見たときは、言葉が出てこない、なんとも言えない気持ちになりました。これ、本番直後だからこそ出てくる市としての気持ちです。
「歴史では自分が信長を殺すから、その通りにすべきなんだ。でも、信長という武将が大好きで…」という心の苦しみ。そういう明智の心情が今回の3作目で明かされて、そこにあるドラマ、人の心が「夢幻」の見どころだったと思います。
――お市に関してはどうですか?
2作目(「冬の陣」)から兄上の女々しさに対してツッコむ姿、「もっと男らしく行けよ!」と背中を押す姿が出てきていたんですが、それが今回さらにヒートアップしていて。特に兄上と2人きりのシーンが多かったので、そこで、兄上にしか見せない妹の顔を見せられたらなって思ってました。市には“現代の記憶”はないけれど、兄上に向ける言葉でちょっと現代っぽい感じになるところがあって、そういうところですね。
「女々しい!!」って。“お兄ちゃん、女々しいよ! もっと頑張れよ! 歴史通りじゃなくたっていいじゃんよ!”みたいに市の気持ちをぶつけて活を入れるシーンは、今まであまり表に感情を出せずにいた市の心の爆発のようで、劇の中でも見どころになれたんじゃないのかなと思います。
――1作目「春の陣」から通して、お市は感情の出し方がどんどん強くなっていった人物だと思いました。そういうお市の経過的な変化は感じていましたか?
「春の陣」ではまだ子供っぽいところがありましたね。納得いかない結婚で送り込まれるとき、ふて腐れて、長政様に(冷たいトーンで)「へえ~」みたいに当たったり。そういう市だったのが、今ではすっかりお母さんになって、茶々(お市の娘)もどんどん成長していって。
これ、ファンの方から頂いたコメントなのですが、小さい頃の茶々は「母上のお歌が大好き」と言ってくれていたのに、今は「歌を聴きに来たわけではありませぬ!」みたいなことを(笑)。確かに「成長したなあ。反抗期かなあ…」って。市の変化も感じるし、そういう茶々の変化も感じました。
市って、すごく家族思いだと思うんですよ。義理の息子である(浅井)重政のことも、きっぱり自分の息子だと言い切って。うまく伝えられる言葉が出てこないんですが、今回はそういう市の家族思いの部分、兄上のことも含め、家族を守るんだという意思を強く感じました。
――田中さんも常々、家族への強い思いを明かしています。お市と自分、重なりませんでしたか?
自分に子供がいるわけではないので、ぴったり重ね合わせることはできないんですけど、私も家族が大好きだし、市の気持ちは自然に作れました。特に、みんなが重政を(父・浅井長政の仇である信長を手に掛けたのではと)疑っているとき。
市は重政を疑いたくはないけど、でも、確かに兄上はここにはいないし…。「どうすればいいんだろう…」みたいになってしまったんですよね。それでも息子を信じたいという市の気持ちは、別に役作りをせずとも、重政の顔を見ているだけで自然に入ってきました。
第3弾「夢幻 ~本能寺の変~」:DVD後日リリース
第4弾「桶狭間」:2019年11月14日(木)~11月20日(木)東京・かめありリリオホール
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