没後50年!「万引き家族」の 是枝裕和監督も愛する天才、成瀬巳喜男が描き続けた平凡な日常の中のきらめき<ザテレビジョンシネマ部 コラム>
日本には、国際的な名声を伴ったすばらしい監督が多数いる。有名(というか定番)なのは「黒澤明、溝口健二、小津安二郎」だが、彼らに続く“第4の巨匠”と呼ばれている成瀬巳喜男のことはご存じだろうか?
成瀬ファンには当然、海外の鬼才たちも含まれ、ダニエル・シュミット、エドワード・ヤン、ウォン・カーウァイ、ジャン・ピエール・リモザン…と枚挙にいとまがない。例えばレオス・カラックスなどは好きが高じ、「汚れた血」('86)を引っ提げて日本に初来日した際には成瀬映画のミューズ、高峰秀子にぜひ会いたいと所望して、憧れの人と食事までしたのであった。
もちろん、日本の作り手の中にもフォロワーは認められ、今や世界に名をはせる是枝裕和もそう。一時期、小津映画との関連性を聞かれるたびに「成瀬の方が影響を受けており、好きなんです」とよく答えていた。
その成瀬監督はといえば、1905年8月20日に東京にて生を受け、1969年7月2日に逝去。今年は没後50年のメモリアル・イヤーに当たり、WOWOWでは“映画に出会う![没後50年 成瀬巳喜男監督特集]”と称して、日本映画史上に輝く「浮雲」('55)を筆頭に、「歌行燈」('43)、「めし」('51)、「放浪記」('62)、「乱れる」('64)の全5作を放送する。ここでは、これらの作品を中心に、ささやかながら成瀬映画の魅力を綴ってみたい。
さて、小津安二郎が1903年生まれだから同世代と言っていいだろう。そればかりか小津も成瀬も、もとは松竹蒲田撮影所の同僚として肩を並べ、同じく「小市民もの」を得意としていた。だが成瀬は撮影所長(後の松竹社長である城戸四郎)から「小津は2人いらない」と言い放たれ、当時誘いのあったP.C.L.(Photo Chemical Laboratory=株式会社写真化学研究所。東宝の前身)を新天地としたのはよく知られる話だ。
P.C.L.や東宝でのその作風は多岐にわたるが、ざっくりまとめれば「文芸映画」「女性映画」の名手になろうか。しかし、本当にオールラウンドであって、戦前戦中だと「芸道もの」というジャンルでも活躍しており、「歌行燈」や「桃中軒雲右衛門」('36)、「鶴八鶴次郎」('38)、「芝居道」('44)といった作品が並ぶ。役者や芸能に携わる人々が主人公で、目の前の苦難と闘いながら自分を見つめて精進してゆく物語が基本である。