<試写室>「いだてん」第26回は菅原小春が魂を吹き込んだ神回
演技初挑戦の菅原小春は、強く美しく戦うヴィーナスだ
(※レビューには若干のネタバレが含まれるので、内容をあまり知らずにドラマを見たい方は、これ以降を読まないことをおすすめします。)
私は、スポーツ観戦が苦手だ。国民の期待を一身に背負う選手の重圧を想像して、胸が痛くなってしまう。
第26回「明日なき暴走」での人見絹枝(菅原)の姿にも、胸が痛くて、苦しくなった。とにかくこの回で、人見にはものすごい重圧がかかっている。
それもそのはず、人見は日本人女性初のオリンピック選手だ。第1部の主人公・金栗四三(中村勘九郎)と同じく、後にも先にも、初めてオリンピックに出場した日本人女性は彼女ただ一人。
そんなプレッシャー、押し花では払いのけられないだろう。心を落ち着かせるなんて絶対に無理。初めて訪れる海外で、日本チームにも女性はただ一人、監督や記者から「メダルを期待してるよ」と声を掛けられるなんて、なんて残酷なんだ。
細かい気配りができる人見は、きっと他の選手たちに言いたいことも言えなかっただろう。
そんな人見がただ一回だけ、自分の意思を貫き通す場面がある。
それが、「100mで惨敗し、800mへの出場を懇願する」というシーンだ。選手たちの控室で、日本選手団で唯一の女性である人見は、涙ながらに「このままでは日本に帰れない」と主張する。
私はこのシーンで、目を背けたくなる程に苦しくなった。映像がまるでドキュメンタリーのようで、人見への周囲の目線と、菅原小春の演技が“本物”過ぎるからだ。“初めての演技とは思えない熱演!”という次元じゃない。菅原が、人見の魂を現世に蘇らせていると思った。
苦しくなる一方で、とても心が震わされる。どんなに涙が出てきても、菅原の演技からは目が離せない。
スポーツ観戦が人々を熱狂させるのは、きっとそんな気持ちからなのかもしれない。降り掛かった重圧をバネにして這い上がろうとする人の姿は、胸が痛くなることもあるけれど、強くて美しくて、目が離せない。
ドラマを見ているうちに、とんでもなくカロリーを消費した気がする。あ、一つだけ言っておくと、見終わった後に食べるために「シベリア」を用意しておくと幸せになれますよ。