スピードワゴン小沢一敬が「最高にシビれる映画の名セリフ」を紹介! 第6回の名セリフは「純平、考え直すなよ」<ザテレビジョンシネマ部>
映画を愛するスピードワゴンの小沢一敬さんならではの「僕が思う、最高にシビれるこの映画の名セリフ」をお届け。第6回は、若い2人が限られた3日間を刹那に駆け抜ける切ない青春ラブストーリー『純平、考え直せ(2018)』(WOWOWシネマ 8月18日深夜1:30)。さて、どんな名セリフが飛び出すか?
第6回 『純平、考え直せ』
――今回は久々に邦画をチョイスしてもらいました。『純平、考え直せ』、いかがでしたか?
小沢一敬(以下・小沢)「主人公のチンピラの純平役の野村周平君という役者さん、俺はあんまりよく知らなかったんだけど、『この子、いいな!』と思った。カッコいいし」
――偶然出会った純平と恋に落ちる加奈役の柳ゆり菜さんもよかったですね。
小沢「もう、すごい好きよ、柳ゆり菜ちゃん。前にバラエティ番組で共演したことあるんだけど、もともとはグラビアの子でしょ? それが大胆なラブシーンも演じてて、驚いちゃったし。あと、純平のアニキ分の北島役の毎熊克哉さんという人もよかったよね。あんまり怖過ぎない、今どきのヤクザっぽくて。俺の好きなシーンがあって、純平が歌舞伎町のカフェでアニキに、組の鉄砲玉をやらされることを相談するところがあるでしょ」
――アニキが熱くなって思わず大声を出してしまって、店員から注意される場面ですね。
小沢「その後で『これで残りわずかなシャバを楽しめよ』って金を渡された純平がアニキにお礼を言うんだけど、普通だったらそこは『ありがとうございます!!』って大声で言うじゃん。だけど純平は、ボソッと『ありがとうございます…』って言うのよ。これから鉄砲玉に行くという状況で、悲劇のヒーローっぽく自分に酔ってたら『あざーす!!』ってなるはずでしょ。アニキのほうもテンション上がってんだから。だけど純平は小さな声で言うんだよね。あそこがすごくリアルでいいな、と思った」
――確かに、純平というキャラクターがよく表現されたシーンですね。
小沢「ずっとどこか冷めてるんだよね、純平は。冷めてるんだけど、冷めてちゃいけないから、無理に熱いふりをしてる。誰にでもあるっしょ、そういう経験って」
――心当たりがある人は多いかも知れませんね。
小沢「とにかくさ、あの純平というキャラクターがすごくいいのよ。能天気で周りが見えてないバカに見えるけど、実はどこか客観的に自分を見てる。理想の男になりたくて、いつもあがいてるんだよね。無頓着で、一本気で、ぶっきらぼうな男に見られたくて、本当はそんな子じゃないのに、それを必死で演じてる。若い頃の俺たちだって、みんなそうだったでしょ。本質はみんな大差ないんだけど、それぞれが“見られたい自分”になろうとして頑張ってた。そういうことをあの『ありがとうございます…』の小さな声に感じたね」
――小沢さんの若い頃も、純平のように“なりたい自分”を演じてる部分はありました?
小沢「若い頃というか、今でも“なりたい自分”を演じてるところはあるんじゃないかな。あと、そこには逆もあってさ。たとえば『そんなことするなんて、おまえらしくないよ』って言われたとするじゃん。でも、それはその人が思う俺の“らしさ”でしかなくて、そんなことをする部分も持ってるのが、本当の俺なんだよね」
――“見られたい自分”だけじゃなく、“こうあってほしいあなた”もあると。
小沢「そう。だから、『小沢さん、こうした方がいいじゃない?』とか言われるたびに、『その方がおまえにとってやりやすいってことだよね?』って思っちゃうんだ、俺は冷めてるから」
――純平以上に冷めてますね、それは。
小沢「他人に『こうした方がいい』なんて言う人は、本気でそいつのことを考えてないと思うから。だから俺が今回、この映画の名セリフとして選びたいのは、ゲイのゴロー(佐野岳)がSNSの掲示板に書き込む、『純平、考え直すなよ』という一言なんだよね」
※編集部注:ここから先はネタバレを含みますのでご注意ください。
――加奈が「歌舞伎町で偶然出会った彼がヤクザの鉄砲玉として人を殺しに行く」と書き込んだSNSの掲示板。興味本位で無責任にあおる掲示板の住人たちの中で純平は有名人になっていきますが、決行の日が迫るうちに『純平、考え直せ!』と彼を止めようとする人たちが何人も出てくる。その中でひとりだけ、実際の純平の姿を知る歌舞伎町の男娼のゴロ−だけが、『純平、考え直すなよ。やれよ。見せてくれよ』と書き込みます。
小沢「俺はSNSの世界がとにかく嫌いで……と言いながらTwitterをやってるんだけどさ(笑)。SNSだと、みんな無責任でしょ。この映画はその無責任さを演出としてうまく使っていて、最後にみんなが『純平、考え直せ!』って書くんだけど、そのほとんどが純平のことを本当に考えて書いてるわけじゃない。俺の好きなミュージシャンの長澤知之君の『左巻きのゼンマイ』って曲の歌詞に『みんな同情はできるけれど それ以上ができない』って一節があって、これは今のSNSの世界をうまく表してると思うんだけど。まさにこの『純平、考え直せ!』って書き込みも、それだよね」
――同情以上の何ものでもないですね、確かに。
小沢「その中で、ゴローは本気なんだよ。本気で純平が鉄砲玉をやるところを見たくて書き込んでる。だからこの一言は、映画の中でも重要な一言だと思うんだ。みんなが誰かに見てほしい自分を演じてるだけ、周りへのアピールとして書いてるだけのSNS社会の中で、唯一これだけが本当のメッセージとして書き込まれた。彼だけが純平の正体を知ってるからこそ、リアルな本音を書き込んだんだよね」
――この映画の原作は直木賞作家の奥田英朗さんの人気小説ですが、「待望の映画化」とうたわれているのも納得ですね。
小沢「うん。よくできたストーリーだな、と思った。いい映画でしたよ。実は今回、違う作品を取り上げようと思ったんだけど、ギリギリで『小沢、考え直した』からね(笑)」
小沢一敬
愛知県出身。1973年生まれ。お笑いコンビ、スピードワゴンのボケ&ネタ作り担当。書き下ろし小説「でらつれ」や、名言を扱った「夜が小沢をそそのかす スポーツ漫画と芸人の囁き」「恋ができるなら失恋したってかまわない」など著書も多数ある。
取材・文=八木賢太郎