<映画アドバイザー・ミヤザキタケル連載>得体の知れない恐怖体験をあなたに!結末が読めないホラー映画2作品【ザテレビジョンシネマ部】
映画アドバイザー・ミヤザキタケルがおすすめの映画を1本厳選して紹介すると同時に、あわせて観るとさらに楽しめる「もう1本」を紹介するシネマ・マリアージュ。
第6回は、共に観る者の心にジワジワと忍び寄り、正体を明かさぬままネットリと纏わり付き、得体の知れない新感覚の恐怖を植え付けてくる『ゲット・アウト』(8月25日夜9:00 WOWOWシネマほか)と『ヘレディタリー/継承』(8月18日夜9:00 WOWOWシネマほか )をマリアージュ。
『ゲット・アウト』(2017)
9月6日(金)に最新作『アス』が公開されるジョーダン・ピールの初監督作品にして、第90回アカデミー賞脚本賞受賞作。白人の恋人の実家で週末を過ごすことになったアフリカ系青年クリス(ダニエル・カルーヤ)が、そこで想像もしなかった恐怖に遭遇する本作は、超低予算ながらも全米で大ヒットを記録!彼が直面するさまざまな出来事、周囲の不可解な言動、入念に張り巡らされた伏線が、あなたを異次元の恐怖へと誘う!
ネタバレなしで一体何を伝えればあなたに興味を持っていただけるだろう。序盤から伏線がちりばめられており、終局へと至る際、その全てが結び付く秀逸さ。何より「人種差別」という大きなテーマがバックグラウンドにあるからこそ、怖さ+重みのある作品に仕上がっている。そして、人間の心に宿りし狂気にこそおぞましい程の恐怖が詰まっていることを本作は示している。
恋人の家族と初めて会う時の緊張感、恋人の実家を初めて訪れた時のアウェイ感は、誰もが一度は味わったことがあると思う。主人公クリスが抱く不安。それは緊張感やアウェイ感ゆえのものなのか、それとも彼がアフリカ系であるがゆえに付きまとうものなのか、彼自身も観ている僕たちも断定し切れない。映画である以上、話がとんでもない方向へ進んでいくと分かっていながらも、身に覚えのある不安を見せつけられることで、彼が抱えるモヤモヤに同調できてしまう。恐怖の前触れを予知できてしまうホラー作品が多々ある中、本作にはそういった予定調和が一切ない。先読み不可能なストーリー展開とも相まって、何度も何度も度肝を抜かされることだろう。
日本人の僕たちは、人種差別のリアリティを抱きにくい。特定の人種を嫌う連中の心などいまひとつ理解できないし、そんな連中に怯える、差別される側の人々の気持ちを理解できるなんて軽々しく言えやしない。日本人では、クリスが感じる恐怖に真に寄り添うことは難しいのかもしれない。ただ、根っこの部分だけは理解できるはず。人より上に、他者より優位にありたいのが人間。同時に、自分より格下だと思える他者がいることで安心できてしまうのもまた人間。自分の方がマシだと思いたいがために弱者をつくる。「人種差別」と聞くと他人事のようにも思えるが、他者をおとしめようとする想いは、誰もがその胸に抱えるもの。無論、僕たちの心にも。