山崎ナオコーラ映画連載「映画マニアは、あきらめました!」第6回は天才アーティストの伝記「バスキア、10代最後のとき」<ザテレビジョンシネマ部>
最近の日本では、バスキアの作品というと、「ファッション業界の金持ち社長が作品を買って自慢しまくっている」というイメージがまず湧いてくる。バスキア自身はこういうのってどう思うんだろう?と気になるところだが、もしかしたら、喜ぶかもしれないな、と思う。そういう意外な波が起きることも含めてアートなのかもしれない。高値で買われることで注目されたり、誰が購入したかというニュースで世間的に大きく扱われたりもするわけだ。
インタビューは、元ガールフレンドで生物学者のアレクシス・アドラー、アーティストのファブ・5・フレディ、映画作家のジム・ジャームッシュ、アーティストのケニー・シャーフ、「SAMO」を一緒に結成したアーティストのアル・ディアス、地下鉄の車両に絵を描いたリー・キュノネス、アーティストのジェームズ・ネアーズ、自分のブティックに服を置いて「マンメイド」のブランドを支えたパトリシア・フィールドといった人々に対して行われている。
ジム・ジャームッシュは、サラ・ドライヴァー監督のパートナーでもあるらしい。つまり、監督もある意味この人たちの仲間で、当時のニューヨークの雰囲気を知っているわけだ。
観ていると、その時代を一緒に過ごすことができた人たちに嫉妬心が湧いてくる。
でも、バスキアを見習って、私たちは私たちの力で、今の時代のこの場所を面白くしていけばいいのだろう。自分の力で時代をつくるのだ。
バスキアは「黒人アーティスト」とくくられることを嫌ったらしいが、例えば私は「女性作家」とくくられることが嫌なので、思いを少しだけ想像できるような気がする。外側からくくられることに反発して、自分たちがつながりたいようにつながって、自分のつくった人間関係で活動をしていけばいいのだな、と思った。
文=山崎ナオコーラ
作家。1978年生まれ。2004年にデビュー。著書に、小説「趣味で腹いっぱい」、エッセイ「文豪お墓まいり記」「ブスの自信の持ち方」など。目標は「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」。