J-POPの希望と限界とは? 亀田誠治スペシャル音楽セミナー「J-POPの未来」開催!
セミナーの後半は「J-POPの希望と限界」として、今の日本の音楽業界や音楽シーンについてのトークが繰り広げられた。
まず音楽市場の構造として、日本では70%以上がCDである一方、アメリカでは75%がストリーミングで音楽を聴くようになり、メディアの移行が進んでいることを亀田が説明する。楽曲の再生回数がアーティストやレーベルの利益に直結するようになり、そのことによって、発売日を重視したプロモーションよりも楽曲が長く聴かれることを重視するようになったと語る。
ただその一方で、亀田は「グローバルのTOP50を聴いていると、ほとんど曲の作りが似ている」と、世界でヒットチャートを席巻する楽曲のサウンドの画一化が進んでいることを指摘していた。生楽器を使わず、3分以内で終わる曲がほとんどになっているという。アメリカではコライト(共作)のシステムが発展し、トップアーティストの楽曲にソングライターのクレジットが何人も並ぶことは珍しくなくなっているが、そのことも影響しているのではないかと、自身のロサンゼルスでのコライトセッションに参加したときの経験も交えつつ語っていた。
また、鹿野は海外と日本のミュージシャンのストリートミュージシャンの技量の違いについて、「ミュージシャンとしての筋肉をつける場所」と捉えるアメリカやイギリスのストリートパフォーマンス状況と、ゆず以降の弾き語り文化の影響下にあり「歌を通して自分を理解してもらおうとする場所」と路上を位置づける日本の音楽文化の違いが、テクニックの違いや歌の強度の違いに繋がっているのではないかと指摘していた。
亀田は日本の音楽文化について「2010年代にJ-POPはすごく進化した。健康的に育ったと感じています」と肯定的に評価しつつ、音楽市場が縮小し予算が少なくなったことにより、今まで通りのクオリティの音源制作が難しくなっていったことを課題としてあげる。鹿野も「CDよりもグッズのほうが稼ぎの多いミュージシャンが沢山いる」と、かつてのレコード会社中心の時代からライブが収益の柱になっていることが説明し、かつ「鉄柵やLED画面が取り合いになっている」とコンサートの制作経費が上がっている現状を解説した。
才能ある若いアーティストは増えているが、それを広めていく手段が減ってきているという問題意識で両者は一致し「次世代に音楽を作る場所を与えたい」と、最後には日比谷音楽祭にも通じる未来への課題を共有した。「文化のボトムアップを追求したい」と語っていた亀田の言葉が印象的だった。
企業の協賛や一般の参加者によるクラウドファンディングで運営された日比谷音楽祭は、急激に変化しつつある音楽業界における「新しいお金の流れ」や「持続可能な音楽文化のボトムアップ」の一つのモデルになるかもしれない。そう感じさせられたトークセッションだった。
取材・文●柴 那典