進化を見せた高杉真宙がいま思うこと「僕はひとつのことしかできない不器用な人間なので…」
およそ10年に及ぶキャリアを積んだ今、高杉真宙に確かな成長を感じる。役者であれば誰もが望むであろう自分のイメージから脱却、そして新たな一歩を踏み出す挑戦――。それを9月20日(金)公開の映画『見えない目撃者』で叶え、「高杉真宙として進化を見せることができた作品になったんじゃないかと思っています」と自信をのぞかせていたからだ。
視力を失った元女性警官・なつめ(吉岡里帆)が猟奇殺人事件の真相に迫る本作は、人間の闇や周囲からの孤立といった現代的なテーマをあぶり出し、狂気に満ちた事件の残酷描写にも向き合った骨太な作品だ。高杉が演じるのは、なつめと共に事件を追うことになる高校生・春馬。他人に対して無関心だが、どこか希望の光を探し続けているように見える春馬は、作品に漂うムードを象徴するようなキャラクターだ。話題作への出演が相次ぎ、多忙を極めている高杉がインタビューに応じ、役づくりや撮影の舞台裏について語ってくれた。
――高杉さんは台本の細かな部分まで読み込むところから役づくりをスタートするそうですが、最初に読んだ印象はいかがでしたか?
「僕が演じた春馬についてだけで言えば、スタートからゴールまで、“成長”という軸がハッキリしていたこともあって、わりとキャラクター像はつかみやすかったと思います。細かな部分で例を挙げると、目が見えないなつめさんのマフラーが地面に落ちそうで、春馬がそれを直してあげるシーン。なるほど、春馬には優しさがあるんだな、と紐づけながら、セリフや仕草から彼の性格や思考を理解していく感じです。あと、読んでいて単純に面白くて、日本ではあまり見たことがない攻めた映画だと感じたので、現場でどこまで攻められるのか、撮影が楽しみになるような台本でした」
――春馬は他人に対して無関心で、冷めた性格の高校生です。魅力的に見えるようにどんなことに意識して演じましたか?
「春馬は現代社会に漂う雰囲気を象徴したキャラクターでもあると思います。でも、それは春馬だけに問題があるんじゃなくて、彼を取り巻く孤独な環境がそうさせてしまった部分も大きいはずで、何かに絶望しているのを春馬だけのせいにしたくないな、と。春馬が夢中になれるのはスケボーしかない、それがどういうことなのか…。僕が演じていくなかで春馬が抱える絶望はハッキリと表現しようと意識しました」
――内面を見せていくシーンはもちろんですが、スケボーやアクションといった肉体的にハードなシーンも今回は多かったと思います。
「春馬が犯人の車に追われるシーンがあるんですけど、あれはすごかった!今回はアクションも可能な限り挑戦することができて嬉しかったんですけど、僕自身が『これ大丈夫!?』とハラハラして…いや正直ビビってましたね(笑)。その迫力はきっと映像でも伝わると思います」
――高杉さんはなつめ役の吉岡さんとの共演シーンが一番多かったと思いますが、いかがでしたか?
「…やっぱり、お綺麗な方だなと思いました(笑)。吉岡さんの作品はいくつも見させていただいているんですけど、今回が初めての共演でお会いしたのも初めてでした。実際にお会いしたらすごくストイックで芯があるというか、強い意志を持っている方だなという印象ですね。そして、吉岡さんが誰よりも大変なはずなのに、周りへの気遣いを忘れていない。そういう座長がいるから僕もしっかりやらなきゃ、と思えたこともすごく励みになりました」
――高杉さんのクランクインが今年の1月31日。舞台や別の撮影で多忙だったと思いますが、当時はどういう状況でしたか?
「ちょうど去年の大晦日に舞台が終わって、年が明けてすぐ別の作品にクランクインしたんです。その撮影の最中に『見えない目撃者』の撮影へ…という流れだったんですけど、これまでで一番忙しかった時期だったかもしれません。最近は作品の撮影期間に別の撮影が重なることがちょこちょこあって、個人的にはあまり…いただけないですね(笑)。僕はひとつのことしかできない不器用な人間なので、同時に何かするということが苦手なんです。もちろん全力でやるんですけど、どちらかがおざなりになっちゃうんじゃないか、と不安になって。今回はクランクイン前からスケボーの練習をしていたんですけど、許されるのであればもっともっと練習したかった。上達すればするだけ僕が演じられるシーンが増えていたと思うので」
――撮影を通じてそれだけ思い入れが強くなっていった、と。
「そうですね。これまで出演してきた映画とは全然毛色が違ったんです。攻めたストーリーも、大変なアクションも、初めてのスケボーも。いたるところに“挑戦”があったので、いろいろと勉強させていただきました。僕の中でゼロだった部分をこのタイミングで経験できたというのは大きなことで、思わず『進化することができた』というコメントが出たのは、そのゼロがイチになった実感があるからかもしれません」
文=山崎ヒロト(Heatin' System) 撮影=中野理