大泉洋、三浦春馬、高畑充希のあの映画も!映画アドバイザー・ミヤザキタケルが厳選した11月初放送3作品<ザテレビジョンシネマ部>
映画アドバイザーのミヤザキタケルが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメの3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし!のはず...。
今月は、実話もの、賞レース席巻作品、アメコミものと、三者三様の面白さが詰まった3本を紹介します。
『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018)
重度の筋ジストロフィー患者である鹿野靖明を取材した渡辺一史のノンフィクションを映画化。鹿野役を大泉洋、彼を支えるボランティアの田中役を三浦春馬、その恋人の美咲役を高畑充希が演じている。首と手しか動かせない体で夢を追い続けた男の生きざまと、彼に振り回されながらも関係を築いていく周囲の姿を通し、正直に生きることの難しさと力強さを活写する。
体は不自由だが、心は自由な鹿野。体は自由だが、心は不自由な田中や美咲。決して鹿野だけに焦点を当てるわけではなく、健常者側の視点も織り交ぜ、対比させていく。1日1日が勝負だと思って生きる者と、明日やれば良いと思って生きる者とでは、当然言動も違ってくる。常日頃から前者のような心構えであるべきだが、一度痛い目にでも遭わない限り、人はなかなか動き出せない。だけど、そんなんじゃダメなことも頭のどこかで分かっている。
病気や障がいを抱えないと、人は変われないのか。そうではない。何度も間違え、痛い目に遭っていく過程で得られる気付きにこそ、勇気の種は宿っている。必要なのは、臆することなく挑戦する覚悟。その境地へ至るためのヒントが本作にはつづられている。
鹿野にとってボランティアの存在が生命線であるからこそ、他者と関わる際の彼の姿勢から見えてくるものがある。それは“正直”であるということ。空気を読んだり、忖度したり、日常生活において僕たちは己の心を殺す場面が多々ある。心を殺した方が円滑に物事が運ぶことも知っている。しかし、効率ばかりを重視した関係性では乗り越えられない壁があり、一方で衝突しながらも構築されていった関係性にしか芽生えない強さもある。
正直でいると揉めたり嫌われるリスクも増すが、ありのままの自分を受け入れてくれる人に巡り会える可能性は増す。上っ面の味方を100人得るよりも、たった数人でも信頼に値する味方を得られる方が圧倒的に心強い。良くも悪くも正直であるが故に、鹿野の周りには確かな仲間がいた。それこそが彼の強さの源であり、今を生きる僕たちに欠けてしまいがちなもの。何のため、誰のため、何を成すために生きるのか。今の自分を見つめ直すキッカケを与えてくれる作品です。
『女王陛下のお気に入り』(2018)
第75回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)を獲得したヨルゴス・ランティモス監督作。18世紀初頭のイングランドの史実を基に、女王を巡るドロドロの三角関係をオリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズが体現し、人の心に宿りし善意と欲望を映し出す。アン女王を演じたコールマンがヴェネチア国際映画祭女優賞と、第91回アカデミー賞主演女優賞を獲得した。
誰の心にも善意はある。ただ、さまざまな経験を経ていくことで、その性質が変化することもある。病弱で決断力に乏しいアン女王、女王の幼馴染みの女官長サラ(ワイズ)、サラの従妹で召使いから侍女に昇格したアビゲイル(ストーン)の3人の関係性を目の当たりにすれば、今を生きる者にも通ずる人間関係のあり方を垣間見ることができる。
例えば、ひとりの人間に備わる他者への善意の総数が“100”であったとする。その善意を“1”ずつ100人に振りまく人もいれば、“25”ずつ4人に絞って振りまく人もいる。生き方は人それぞれなので正解・不正解はないが、時には効率の良い振りまき方が求められるのも事実。その辺のさじ加減が絶妙なアビゲイルだからこそ、召使いの地位からはい上がっていけたのだ。世の中綺麗事だけでは生きられないし、計算して信頼を勝ち取り、人間関係を構築していくのもひとつの手。しかし、そう上手く事が運ばないのもまた人生。
アビゲイルは善意を向ける先を女王に絞っていくのだが、得られるメリットが大きくなる反面、生じるリスクも跳ね上がる。その関係が破綻すれば、助けてくれる者はいない。そして、“100”の善意では満足できない怪物も世の中にはいる。女王の善意の受け皿が“1000”の容量を持っていたのなら、全くもって足りやしない。
三角関係があったからこそ、何とかバランスが取れていた女王の心。何より、善意を欲のために用いた時点で、それはもう善意とは無縁のものに成り下がる。欲に駆られ善意を乱用し続けた顛末をあなたは目撃することだろう。
『アクアマン』(2018)
『ジャスティス・リーグ』(2017)に登場したDCコミックスのヒーロー、アクアマンの単独作。監督は『ソウ』(2004)や『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015)のジェームズ・ワン。海を汚す人間を憎む海底人の地上侵攻を止めようとするアクアマン(ジェイソン・モモア)、それぞれの正義のあり方から、全てを救うための道を模索することの価値を描いています。
本作における戦いの構図は「正義VS悪」じゃない。あくまでも「正義VS正義」。互いに己の正義を押し通すためのぶつかり合い。それこそが、本作の根幹を成すテーマだ。正義同士が衝突した以上、どちらかの正義は報われ、どちらかの正義は悪と見なされる。否定された方はどうしたら良いのだろう。決まっている、己が正義の正当性を証明することでしか抗えない。そうして争い事は途絶えず、人は争いの連鎖を断ち切れない。
だが、人間と海底人のハーフであるアクアマンは、どちらの正義も酌める立場にあり、双方の言葉に耳を傾け、両者の橋渡し的存在になり得る可能性を秘めている。そして、それを成すために必要不可欠な王の証、トライデントを手にするべく旅に出る。が、当然僕たちの世界にはヒーローもトライデントも存在しない。それらに代わる解決策を見い出していかなくてはならず、より良き未来は僕ら自身の手にかかっている。本作は現実にはびこる問題を認識させてくれる作品です。
ひとりの人間として大事にすべきことを示した3作品と共に、今月も素敵なWOWOWライフをお過ごしください。
文=ミヤザキタケル
長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。
こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話
WOWOWシネマ 11/2(土)よる8:00
WOWOWプライム 11/3(日・祝)午前8:45
WOWOWプライム 11/7(木)よる7:50
WOWOWシネマ 11/10(日)午前9:30
WOWOWシネマ 12/11(水)よる9:00
WOWOWシネマ 12/25(水)午後2:45
女王陛下のお気に入り
WOWOWシネマ 11/17(日)よる9:00
WOWOWプライム 11/22(金)深夜1:35
WOWOWシネマ 11/28(木)午後2:45
アクアマン
WOWOWシネマ 11/30(土)よる8:00
WOWOWプライム 12/1(日)午前10:15
WOWOWプライム 12/5(木)よる7:30
WOWOWシネマ 12/8(日)午前8:15
WOWOWシネマ 12/21(土)深夜0:30
WOWOWプライム 12/29(日)よる7:00