われわれはなぜ魅せられてしまうのか! 岩井俊二ワールドの映像磁力 <ザテレビジョンシネマ部>
もちろん今回放送される3作も手掛けており、岩井監督初の長編、中山美穂がひとり二役で神戸と小樽に住むヒロインを演じ、“2人”が文通で交流する『Love Letter』が当時珍しかった横長のシネマスコープ画面となったのは彼の勧めだ。
そもそも手持ちカメラは岩井作品の代名詞だったが、篠田昇もハンディカメラやステディカムを好み、独自にカスタマイズ、さらにミニクレーンを駆使してキャラクターごとの生理、息づかいにまで肉薄していった。
アジアの無国籍都市・円都(イェンタウン)を舞台にした群像劇『スワロウテイル』では、16ミリと35ミリを併用した篠田昇のカメラに小林武史の音楽も加わり、Charaが劇中扮するグリコをボーカルにしたYEN TOWN BANDの「Mama's alright」「She don't care」「Swallowtail Butterfly~あいのうた~」などが作品世界の飛距離を一段と拡げた。
もうひとり、忘れてはいけないのが日本を代表するプロダクション・デザイナー、『花とアリス』でもタッグを組んだ種田陽平。円都の、魔窟のような巨大オープンセットは、従来の日本映画を完全に刷新するものであった。
大学入学のため北海道から上京し、東京で新生活を始めたヒロインの日常と恋心をみずみずしく綴った松たか子主演の『四月物語』は、彼女のミュージック・ビデオの依頼が先にあり、「空の鏡」のMV、さらにはビデオクリップ集「film 空の鏡」を発表してから映画づくりへと移行。
そんな工程からワン・アンド・オンリーな青春ストーリーが生まれたのであるが、ラストの雨のシーンは大仕掛け! “光のマエストロ”篠田昇のこだわりもあり、早朝に大型クレーンで高所から延々と、ひとつのストリート一帯に大量の雨降らしを敢行して岩井テイストの“魔法”を成立させたのだ。