アカデミー賞3部門受賞の話題作『グリーンブック』を人気作家山崎ナオコーラが語る「気持ちが少しだけわかる」
山崎ナオコーラが映画をテーマに等身大でつづるエッセイ。第11回は、第91回アカデミー賞で作品賞など計3部門を受賞した、人種や階級の壁を越えて心を通わせる男たちの姿を実話をもとに描いた感動作『グリーンブック』を観る。
第11回『グリーンブック』
私はこのあとケンタッキーフライドチキンに行こうと思っている。観終わったあと、無性にフライドチキンが食べたくなる映画だ。
品位を保つことを何より大事にするインテリのピアニストである黒人のドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)と、粗野で無教養だがハッタリが上手く腕っ節も強いイタリア系の「白人」のトニー(ヴィゴ・モーテンセン)が、高級車で旅をする。トニーは『グリーンブック』のページをめくりながらキャデラックを進める。
『グリーンブック』というのは、人種差別の激しい南部で「黒人」が利用できる宿や店が載せたガイドブックだ。ドクター・シャーリーの挑戦的な南部へのコンサートツアーに、運転手兼用心棒としてトニーは同行するのだ。喋り方や食べ方の差で育ちの違いが浮き彫りになり、衝突したりそのあと仲良くなったり……。その繰り返しが笑いを誘う。ただ、これを笑えるのは「黒人」と「白人」の経済格差が通常のイメージと逆だから、というわけで、微妙なところではある。
フライドチキンのシーンは、トニーから無理矢理にフライドチキンを勧められたドクター・シャーリーがいやいや骨を握り、「ナイフもフォークもないのに、どうやって食べるんだ……」と戸惑いつつもかじり、意外に気に入ってしまう。そのときのドクター・シャーリーの顔がかなりキュートだ。とはいえ、トニーがぽいぽいと車外にゴミを捨てたらたしなめ、拾わせる。